22時17分

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10/15/2024, 9:35:50 AM

高く高く、なるべく高くを競うようだった。
神目線から見下ろせば、積み木を組み立ているようである。いや、材質からして積み石か。
積み石の上に積み石を。
少しずらして配置するその様子より、完成形を想像するに、ピラミッドを作っているのだろう。

賽の河原で行われる石積の苦行をしている。
石のサイズは、大人二人分を並べた以上はある。
横に長く、ずっしりと重い直方体を、使い古された綱で繋いで、大人数で石を引っ張っている。
綱が切れないのが不思議なほどだ。
物言わぬ労働者は皆素足をさらけ出し、乾いた地面に足をつけている。
服も貧相なもので、髪もヒゲもボサボサときている。

それが、長蛇の列を作っている。
ずるずる、と重苦しい雰囲気が一直線上となる。
切り出されたばかりの石の角は、最前列になると丸みをおびるようになる。
採石場とピラミッド建設現場までの距離が遠いのだ。
いつしか長い道のりに対し、なぞり書きされたような太い線を作っていった。

設計図を見て指示をしている人が幾名かいる。
早く、早く、と口酸っぱく責め立てている。労働者は皆影絵のように口を閉ざしている。
どうやら、日が落ちる前にピラミッドを完成させたいようだ。上からの命令、納期が……。
そんなことはできない、無理だ。
などというものは、一人残らず首を切られてしまう。
一歩一歩、規則正しい秒針のごとく稼働している。

そんな残酷なピラミッド予定地区だが、こんな残酷が十いくつも同時進行していた。
どれも「高く高く」を標榜としていた。
ピラミッドを作る目的は明かされていない。
それは労働者はおろか、指示をしている者、上から命令する者、その王すら不明だった。王の側近である神の預言者も「神の思し召し」だと言って聞かない。
思考停止だ。

実を言うと、ピラミッドの設計図を描いたのは神目線……すなわち神だった。
時々神は空中散歩という名の暇つぶしをした。
太陽の光でできたオープンカーで、世界中を駆け巡っては、このように空から進捗を確認するのだ。

別に設計図通りに作る必要はなかった。
神から――空から見れば誤差である。
完成寸前のところで、砂嵐や川の氾濫をしてやり直しをさせる腹積もりでもある。
神は悪態をつくタイプだった。

「うーん、なーんか妙な鳥になっちゃったなあ。上手く行かない……」

砂漠地帯は落書きに最適だった。
いつでも書き直せて、いつでもやり直しが効く。

その時代の者たちは全員死んだが、のちに一部は「ナスカの地上絵」として生き残った。
今も昔も、砂絵も神も労働者も、形も立場もまったく変わっていない。
謎は謎のまま。神秘は神秘のまま。人は人のままだ。

10/14/2024, 9:43:36 AM

子どものように、と昔を思い起こしても子供のようにはなれない。
その事実から約十数年たった今の時代。
文明が発達して子供の頃の記憶を外部装置に残しやすくなった。子供のように、と昔を思い起こそうとスマホを起動すれば、いつでも子供になれる。
例えば子ども時代が不登校であれば、いつまで経っても子供のままである。

これは一種の提案であるが、こんな便利な世の中だからこそ、子供の頃の記憶は記憶のままでいたほうが良いと思う。スマホ動画などを撮らずに、記憶は記憶のまま残そうとしよう。
そのほうが脳の記憶領域が活性化するのではないか、という、一種の戯言。
AIの発達で、人間の脳は大容量なだけで実はスカスカになる。子供にスマホアプリみたいな便利を体感したら、大人になる頃にはボケていると思う。

10/13/2024, 9:24:43 AM

放課後になれば自分は「無敵」になると思っていた。
あの頃の僕は小学生だった。
校門から出て速攻家へ帰って、玄関からランドセルだけを放り投げる。宿題なんて二の次三の次。
友だちのところへ行ってくる。
チャリの鍵を取って外へ出た。

門限まで二時間もなかった気がした。
だから、当時の僕は無敵になるしかなかった。
自転車に跨り、ペダルを漕ぐ。
車輪が回り、回転が調子に乗ってくると、頭の中はいつもマリオカートのBGMが鳴っていた。
ててて〜、てれっててって。
今の自分はスターを取っている。
いわば無敵モード。
周りの景色が止まって見えていた。
速い、速いと自分は一段と急いでいた。

でも、大人になった今。
無敵などというものは、人生においてないのだろうと分かってきた。
あっても一瞬であり、その時は過ぎ去った、と思いたい。
あ〜あ、どこかにスターが落ちてないかな。
そんな風に地面ばかり見ているから、月や空や雲などの他のアイテムに気づかず過ごしているのかな、なんて。

10/12/2024, 9:37:58 AM

カーテンがかすかに揺れて、微量ながらも風が入っているのがわかる。
起きたらもう夜。
今日は一日中眠ってしまったことになる。
これを睡眠負債と呼び、休日になるといつもそれの返済をしているような気がした。

毎日規則正しい生活を、というからそのような生活を目指しているものの、その進捗率はいまいちである。
しかし、そんなものでへこたれたらあかん!
今日起きれたという奇跡を褒め称えよう。

どうしてこんなつまらない文章なのかというと、さっき気づいたからである。あっ、書いてないや。そういうわけである。

みんなの投稿とかを見てみると、夜六時台というのは、お題保存の名目で、「とりあえず投稿」をしているやつが大半てある。
僕と同じくテイタラク。
そういうヤツほど、過去の投稿とやらを見ると、だいたい書いていない。
なんだ貴様らは。お題集めに夢中で、「書く習慣」が身についてないじゃないか!
そういうのはな、長い小説や長い文章を書こうとしてるから書けないのだ。
短くてもよい。どうせ小説なんて書けないんだから、という風に、そのプライドを捨てろ!

そんな感じで、不特定多数に向けてなんか書くのはストレス発散になる。
カーテンはいつも揺れている。
それを見るとそうだった、と思わざるを得ない。
僕はカーテンにならなければならない。
揺れる、という存在。
僕たちは何かしらの知見を得るために、このアプリをダウンロードしたはずだ。
お題集めに夢中な他人など、どうでも良い。
僕はふわりと揺れることにする。

10/10/2024, 10:01:35 AM

涙の理由を明かさないでいる予定だった。
普段は強固なパスワードで保護しているが、その瞬間だけは隙を見せた。
画面スリープせずに、彼女は立った。
そのスマホを一度でいいから確認したい、見てみたいと思っていた同棲の彼。
無防備に遠ざかっていく気配、服のこすれ合う感じ。ドアの閉める音。その後に聞こえるシャワーの蛇口。ひねる。
このときしかないと、言語道断の指紋を付けた。

付き合っている人のスマホを見てはいけない。
どんなに気になっていようとも、尊大な疑心を抱いていようとも。でも、でも……。

メール、LINE、SNS。
一応ゲームアカウントもチェックした。
特に心配したことの形跡は見当たらなかった。
良かった、という意味の、ふう。
彼女のシャワーは彼の三倍の時間がかかる。
まだいじくっててもいいだろうと彼は考えた。

ネットサーフィンでもしてやろうか。
あわよくば履歴をのぞいて……と思ってアプリを開くと、直前に開いていたページが画面に浮上する。
とある人のNoteだった。
もしかして、自分で書いた文章なのか。
スクロールで内容を遡って見るが、0.5スクロールで最上部に達した。投稿タイトル、一分で終わる本文。
どうやら、嘆きのものだった。

「あなたのいた席はずいぶんと長い道程の果てにたどり着いたものだった。それがたった一度の過ちで、今では地の底へ。
 いっときの感情のもとに切り捨ててあげてもいいのだが、ファンにも矜持というものがある。ハトがカラスになったとしても、鳥好きな人でありたい。」

除菌シートを一枚とり、画面を傾けた。
不躾の指紋を拭き取る時に気づいた。
すでに乾いた、いくつもの涙の雫の痕跡が。

彼女は十年ほど推していたらしい。
高校生のつらい時期を乗り越える糧にしていたらしい。
一方彼は、まだ三年くらいしか推されていない。
同棲期間はまだ三カ月。

彼女はシャワールームに留まっている。
涙の理由を可能な限り排除する予定だった。
スマホの画面をきれいに拭い取ってから、彼はこたつから立ち上がった。

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