Cu

Open App
1/8/2024, 12:33:59 PM

「色とりどり」は強敵である。

化粧品売り場に行ったときのことだ。
その日は丸腰で前情報を持ち合わせていなかった。

売り場はブランドごとに整列されていた。
ローズ系の口紅は視界に入るだけで数種類、
ブランドを変えれば星の数ほどに感じられた。

アイシャドウパレットは私を誘惑し戸惑わせた。
「可愛い」と手に取った瞬間に
「いや、似合うのか。使いやすいのか?」
「そもそも自分はイエベなの?ブルベなの?」
「この値段はリピ買いできるか??」
の問いが繰り返される。

口コミや似合うパーソナルカラーをすぐにでも調べたいが、今日は一人ではない。

後ろから健気についてくる恋人は、
「ゆっくり見てください」のスタンスだが、
いつ「全部同じ色じゃん」なんて
疲れ果てるか分からない。

一つの情報も取りこぼすまいと
青ざめて目をぎょろぎょろさせながら、
店をぐるりと一周した。

そして様々な色と選択肢に圧倒され、疲弊し負けた。

次こそ準備を整え入店しようと
化粧品売り場を後にしたのだった。

#色とりどり

1/4/2024, 12:47:16 PM

味噌汁なのかもしれない。

もっと詳しくいえば、赤味噌のしじみ汁だ。

「好きな食べものは?」と問われても登場しない。

「食べたいものは?」と問われると浮気してしまう。

だけど、ひとたび食卓に登場すると、

心の隅々までにいきわたる。

「ああ、帰ってきた」と思える。

漁港で生まれ育った猫は一生魚を好み、

肉屋の看板猫は一生肉を食べる。

私も一緒なのかもしれない。

なんの変哲もない、

レトルトの味噌汁が深い幸せに繋がっている。

#幸せとは

1/3/2024, 12:27:56 PM

AM2:00

年に一度の音楽番組も
ぬくい布団も投げ出した。

窓の外は暗闇が深くて、
おにぎりは胃もたれしてしまう。

ニュース番組には知らないキャスター。
今更になって荷物を全部取り出して確認する。

そのうちエンジン音がして
雪道へ出発した。

恐ろしい森の入口
謎の野生生物
星の降る階段

「ダンジョンみたいだね」と笑った。

新しい西暦を雪に書き込む

興奮と眠気で喋ったり喋らなかったりしながら、
街を見下ろした。

吹き付ける風に足や耳が取れそうだ。

だが誰一人、不満を口にしなかった。

暗闇に赤い筋が灯る。
ゆっくりだけど早い。
私達とは違う時間の進み方だ。

ただ、なすがままに私は万歳をし、
オレンジ色に包まれていった。

#日の出

1/2/2024, 12:32:04 PM

夕暮れ時から準備を始める。

枝や松ぼっくりをかじかんだ手で
拾い集めるのだ。

そして、アルコール度数の強いお酒を
ガラス製のグラスに入れる。

おつまみは、なるべくオヤジ臭いものがいい。

マッチを擦る。

グラス越しに赤い影が差すのだろう。

揺らめきを見つめながら、
背伸びをしてふっと微笑むのだ。

#今年の抱負

12/30/2023, 8:56:01 AM

電車で一風変わったおばあさんと隣になった。
帰り際にお礼だと言って、
みかんをもらった。

このみかんには不思議な縁を感じた。
昔話のように思いつきもしなかったものに
変わるのかもしれない。

じろじろと帰り道にのどが渇いた商人はいないか
坂はないか穴はないか泉はないかと探して回った。

それでも、みかんは無事に手元にあった。
大人しくみかんを剥いて食べた。

なにも変化は起きなかった。

#みかん

Next