伝えたい
着飾ることが好きだった。
1着3万円以下の服は選ばなかったし
出掛ける時の用意には最低90分。
髪を巻いて、必ず香水を纏って外に出た。
子供なんていらないが口癖だったよね。
今は着古したパーカーに色あせたデニム。
1着3000円位の服しか買わないし
90分あれば1日の家事は大方終わる。
あの頃の香水は玄関の消臭用になってしまった。
体型も随分と変わったから
もし10年前の私が、今の私を見たら
酷いオバサンだと鼻で笑うだろう。
でももし何かメッセージを伝えられるなら
キラキラしてないけど
今の方が何十倍も幸せだよ!
って伝えたい。
この場所で
湾になっているその海辺は、常に穏やかな波しかこない。
ここで学校に疲れた時は時間を潰し
ここで初めての恋を実らせ
社会に出るとタバコを片手にのんびり眺めた。
子供が産まれる前にはお腹をさすって散歩をし
去年の夏には息子とカニを捕まえた。
この場所でずっと生きていけたらな。
都会にはもう疲れた。
花束
27歳の終わり頃。
沢山のTo doリストを抱えて帰省した。
久しぶりの父からの誘いも多忙を理由に断ると
夜中にも関わらず突然キレだした。
「お前は、なしてそげんことも出来んとか!?」
萎んだ口元をわなわなと震えさせながら
振り下ろそうとする腕を必死で止める母。
結局、何発か叩かれたが痛くはなかった。
怖かったあの拳もすっかり歳をとっている。
それからの数日間。
父とは目も合わせずもちろん会話もない。
同じ空間にいることを拒んだ私は予定をさらに詰め、
家にはあまり帰らなかった。
まだ少し雪が残る朝。
笑い声が消えた実家から車で30分の場所にある
大きな扉の前。
久しぶりに聞いた声は少し震えていた。
「こんなお父さんだけど、〇〇ちゃんのこと大好きよ」
謝ることを知らない人が考えた精一杯の
ごめんね。だった。
まだ泣いてはいけない。
左手の大きな百合の花束をぎゅっと握り
おめでとうの声で溢れるの光へ
父と2人ゆっくりと歩き出した。
スマイル
堪らなく可愛い。
可愛すぎて心と体が分離する。
次第に全身に広がるムズムズは行き場をなくし
小さな頬にそっと噛み付くことで昇華出来た。
可愛いの最上級は【食べたい】だと知った。
今日は君が初めて笑った日。
どこにも書けない
結婚5年目。彼らに子供はまだいない。
画面に大きく映し出された2人の目尻には皺が寄る。
男性の方は結婚してから別人のように変わってしまった。
たぶん幸せなんだろう。
久しぶりに実家でお正月を過ごしたそうだ。
仲睦まじい彼らを囲むように、老若男女が笑い合う
よくある家族のお正月風景。
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でも本当のアナタを知る私は怒りに震える。
やもめの舅と1人分のお節を残し
毎年正月は自分の実家にそそくさ帰っているよね?
「久しぶり」の言葉に悪意を感じるが、8件目のコメントに真実を載せる勇気が出ない。