♪おてて つないで… そんな出だしの歌があったな。
調べてみたら、童謡「靴が鳴る」とあった。
ああ、知ってるわ。歌詞を追っていくと、メロディーもだんだんと思い出してきた。
童謡って、懐かしいね。
「手を繋いで」
「ありがとう」「ごめんね」
二人の間に、どのくらい交わされただろう。
「ありがとう、ごめんね」
中学生の頃の将来の夢は、「本屋かケーキ屋の店員になりたい」だった。
理由は至極簡単。読書もケーキも好きだったからだ。
そして数年後、その夢は実現した。
と言っても、事務職だったのだが、毎日新刊を手にし、各箇所ヘ配送する作業をしていた。
段ボールを開けたばかりの、まっさらな本を手に取る。滅多にない経験に、なぜか少し得意気になったものだった。
長い間、その仕事をしていた。本当にその仕事が好きだった。
しかし、ある時、その仕事は途絶える。担当替えがあり、それまでとは全く違う作業をすることになった。
組織の中で働くということは、そういう事もよくある事だ。甘えかもしれないが、新しい作業がどうしても受け入れられず、我慢しながら引き継ぎを続けた後、限界が来て心を病んだ。
もちろん、全ての人が病気になるわけでは無いのだが、現実というのは、夢だけではやっていけない、厳しいものだという事を感じている。
退職してもしばらくは、あの仕事に戻りたいと思っていた。けれどもう元に戻ることは出来ない。それもまた現実だった。
今の私は、別の組織で、職員という立場で仕事をしている。それまでとは全く畑違いの仕事だが、幸い、心が崩れることなく働いている。でも、あの好きだった仕事は今でも気にいっているし、あの頃の、充実していた自分も、過去の中で確かに存在している。それはこの先年月が経っても変わらないだろうと思っている。
「夢と現実」
さよならは 言わないで。
私の方から言うから。
じゃないと、いつまでもあなたのこと忘れられなくなるから。
勝手だと 言わないで。
決心が鈍るから。
「さよならは 言わないで」
何が、かは覚えていないけれど、今日が最後だ、という夢を見た。
離れたくなくて、顔が歪むような気持ちになったことは覚えている。
そこで目が覚めた。
目が覚める直前まで見る夢は、現実を認識するまでに多少の時間をかけさせる。
闇の世界から光の日常ヘ。その狭間には、不思議な空間が漂っている。
「光と闇の狭間で」