すれ違う人の顔さえ薄暗い中ではわかりにくくなる
黄昏時。
黄昏時は『誰そ彼』時。
いま隣で話してる君も
いま後ろから声をかけてきた君も
誰そ彼は?
問いかける僕に笑いかける君。
「んーふっふ、さぁさぁ誰だろうねぇ」
そしてアンタも
「誰そ彼はぁ?」
「彼は誰……あぁ、そうだね」
僕は誰なんだろう?
君は誰なんだろう?
黄昏時は誰そ彼時。
黄昏時は逢魔が刻。
さぁさぁ誰だろうなぁ。
僕は君はアンタは
黄昏時に出逢う貴方はだぁれ?
静かな街。
少し古びたアパートの2階。
駅からは歩いて10分、近くにはスーパーがある。
二人で過ごすのには少しだけ狭くて、一人で過ごすには広い部屋。
あの日までは貴方と私の話し声と笑い声が響いていた。
あの日、貴方が出ていった日から静寂が響いた部屋に久しぶりに賑やかな声がする。
一人で寝るには広いセミダブルには、久しぶりに自分以外の人。
気に入ったロフトには自分以外の人の荷物。
洗濯物も冷蔵庫にも人の気配。
静かな部屋
ずっとずっと静かな部屋でしかないと思っていた。
今日からはまた賑やかな部屋になりそうだ。
『声』がきこえる。
思考は自分の声で、
小説を読むときや漫画を読むときはその人物の声で
私の頭の中ではいつも『声』がする。
頭の中の『声』は時々『会話』をしている。
それは突然降ってきて、私はそれを文章にする。
だから私の文章は書きたいとこだけ。
『声』がする。
いまも私の頭の中の『声』をなぞる。
なぞる
なぞる
『声』がきこえる。
明日、もし晴れたら
何をしようか?
貴方が私に問いかける。まだ窓の外では雨音が響く。
ざー…ざー、ざああああああ……、
雨音にまぎれて聞こえないふりもできたのに、私の頭は考えることにしたらしい。
明日、もし晴れたら。
貴方とどこかに出掛けたい。
この前買ったお気に入りの服と靴を身に着けて、いつもより少しだけ気合の入ったメイクと髪型にして、貴方の隣を歩きたい。
そんなことを考えるけど、言葉にするのはなんとなく恥ずかしい。
さて、どう答えようか。
「オレはね、キミとお出かけしたいよ」
ほら、この前君が買った服と靴、見たいなぁって思ってさ。
オレもね、キミに見せたいとこや一緒に食べたいものいっぱいあるから、、
ねぇ、だから
貴方の誘いに頷きながら、私は明日晴れるようにおまじないのてるてる坊主を作ろうとティッシュに手を伸ばすことにした。
誰かと過ごすのが嫌いなわけではないんだ。
ただ誰かと過ごすことで色々考えないといけないことや、自分だけならすぐに組み込める予定も組み込めなくなること、そういう誰かが居るからでてくる諸々がどうも苦手なんだ。
誰かと過ごす自分は好き。
誰かと話せる時間も好き。
誰かがいるの好きなんだよ、本当に。
ただね、私は私だけの時間が好き。
私の責任で私の考えで私の為に私だけが使える時間が大好き。
だから疲れちゃうんだ。
疲れちゃう時は全部ぜーんぶ投げ出したくなる。
なんで私の用事を決めるのに誰かに聞かないといけないんだろう。
なんで私の好きなことをやるのに誰かに謝るんだろう。
私が私の為に私だけが使う時間をなんで誰かと共有しないといけないんだろう。
人は支え合わないと生きていけないよ、って言われたとき、理解はするし納得もするけど、心の何処かで小さく小さく引っかかる時はある。
多分、この引っかかりがなくなるとき、そういう人に出会えたなら誰かと本当に過ごせるんだろうなぁ。
でもいまはまだ何処かで一人の時間ないと息苦しくなるから、だから、私は一人でいい。
まだ一人がいい。