「この人を理解できるのは私しかいない」
初めて彼女の短編作品を読んだ時、そう思いました。
世界でただ一人
同じ感性を持つ魂の片割れに
やっと出会えた喜びを私は一生忘れないでしょう。
しかし
そんなものは幼稚な勘違いでしかありませんでした。
彼女の煌めく言葉の数々と
繊細で特異な作家性に惹きつけられた人間は
私だけではなかったのです。
私はいつも輪の中には入れてもらえませんでした。
言葉を尽くしたラブレターを贈っても
彼女の関心が私に向くことは
終ぞありませんでした。
届かないどうして…
そうして魂の片割れは
私の胸に嵐を呼んでどこかへ去ってしまいました。
この身体は大事な何かを半分欠いたまま
いつかの手紙の返事をずっと待っています。
報われたくてどうにかなりそう…
この人を理解できるのは私しかいないと
そう思っていたのにどうして…
そこにあった現実は
「私ではない」
ただそれだけだった認めたくない
◼️失恋
君は生来の性分なのか
嘘をつくのが下手だったね
からかっているわけじゃないよ
その高潔な精神はこの世界の宝だと思うし
僕は個人的に君を尊敬しているんだ
ところでここには君と僕の二人
ショートケーキは一つ
さて、
ケーキを賭けてババ抜きでもしないかい?
◼️正直
それは春と夏の間に横たわっていて
長雨の合間に晴れ間と虹を孕んでいる
人を憂鬱にさせるけど
もしかしたら家にこもって
今の自分と生活を見つめてみたら?
って言ってるのかも
温かいミルクティーを淹れて
手帳を開いて
自分が今どこにいるのか確かめる
眠たくなったら眠っていいよ
微睡の中、窓の外の雨音を聞きながら
いつか浴びる喝采など夢想してみる
雨が止んだら、夏が来るよ
◼️梅雨
もう一生袖を通す事は無いと思っていたから、花嫁のれん館の存在を知った時は心が躍った。
七尾駅から徒歩8分、花嫁のれん館では「花嫁のれんくぐり体験」ができる。
加賀の婚礼時、花嫁が持参したのれんを嫁ぎ先の仏間に飾りくぐるという伝統行事だ。
ちなみにこの体験では白無垢を着ることができる。
相手がいなくても、せめて写真一枚くらいは撮っておきたかった。
が、
加賀への旅行計画を立てても私がこの花嫁のれん館へ足を運ぶことは無かった。
一度目はコロナ禍
二度目は能登半島地震
どちらも臨時閉館。
災害の前に一人間の瑣末な願望が何だと言われそうだが、それでも少し残念ではある。
次こそは。
そう思っているが、もし三度目も同じように逃したならもう怖くて白無垢は一生着れないだろう。
世界系ヒロインかよ。
◼️無垢
人生を旅に例えるなら
このペンはパスポート代わりね
これさえあればどこにでも行けるもの
そしてこっちの分厚い手帳は地図
君にはある?
自分だけのパスポート
目的地はもう決まってる?
何を見つけに行く?
旅の装備は?
どんな靴を履いて行く?
いつ出発する?
誰と一緒に行く?
今、どこに居る?
わかってると思うけど
この旅は君の人生を超える
君がこの世界から消えてからが本番だ
君の残したものは誰かの
心に、人格に、魂に溶けて
時代を、歴史を
緩やかに下って旅を続けていく
どこに辿り着くのか
見届けることはできないけれど
次生まれてくるときに
地球の裏側で出会うかもね
とりあえず切手、渡しとくね
旅先で可愛いポストカード見つけたらさ
送ってよ
◼️終わりなき旅