〖泣かないよ〗
「泣いてるの?」
電話越しに鼻をすする私の声を聞き、彼は聞いた。
「泣いてないよ?笑」
実際、花粉症で鼻水が止まらなくて鼻をすすっていたところもあるけれど、私は泣いていた。
最近会えていなかったから、彼が私に愛を伝えてくれる度に、どうしようもなく不安になり、気づいたら涙で視界がぼやけていた。
「泣いてるでしょ?なんで泣いてるの?」
「ううん、大丈夫だよ、泣いてない。」
「大丈夫って言う時は大丈夫じゃないじゃん。」
「もう泣いてないから。」
「ちゃんと言って、そうじゃなきゃやだ。」
何度も何度も理由を聞いてくれる。
もう既に眠たくてほとんど頭が回っていないだろうに。
「ねえ、なんで泣いてたの?」
「特に理由はないんだけどさ、不安になっちゃったんだ。」
「大丈夫だよ。俺はずっとそばにいるよ。離れたりしない。愛してるよ。」
「うん、分かってる。うちも愛してる。」
「知ってるよ。絶対離れないから安心してね。」
「うん、ありがと。」
彼はいつもよりも優しい声で私を包み込んでくれた。
決めた。どんな理由があったとしても、私は彼の知らないところで泣かない。
彼は私が泣いたことを知っておかないとどうしようもなく不安になっちゃうから。
〖星が溢れる〗
もう数え切れないほどあるけど、まだまだ足りない彼との思い出。
彼は覚えてないかもしれないが私は覚えていることがあると思う。逆も然り。
「次のデートどこ行くー?」
「どこでもいいよ?」
「ねえ、考えてる?笑」
「考えてるよ笑」
「なんかしたいことないの?」
「したいことかあ。」
彼はしばらく黙り込んで私に言った。
「一緒に行けるなら何でもしたいしどこでも行きたい。」
「うーんと、、かっこいいねんけどさ?」
「ん?」
「ちょーっと違うねんなあ笑」
「え?笑」
「いや、かっこいいねんで?笑」
「ちがう?笑」
「だいぶね?笑」
こんな些細なこと彼は覚えてないんだろうな。
どんなに小さなことでも私には全部輝いて見える。
彼と私の間で溢れるほどに増えてく思い出。
できるなら全て覚えておけたらいいのにな。
〖ずっと隣で〗
「ずっと一緒だよ。」
彼は私に言う。
すごく心配性で、私のことが大好きな故に不安になることが多い彼。
「俺から絶対離れちゃだめだよ?」
「俺以外は見ないで。」
「2人で幸せになろーね。」
「ずっと一緒だからね、隣にいてね。」
一見メンヘラに見える彼だがそんなことはない。
いや、私と付き合う前まではそーだったのかもしれない。
私のために変わったんだと思う。
そんな君から離れるはずがないじゃん。
〖もっと知りたい〗
スマホをいじりながら、私のお腹をムニムニする彼に聞く。
「デーデン!」
「ん?笑」
「うちの好きなとこ10個今すぐ答えよっ!」
「なんそれ笑」
「ほら、はーやーくー!」
「優しい、可愛い、顔がタイプ、周りをよく見てる、面白い、責任感が強い、めっちゃ笑う、俺のこと大好き、俺だけに甘えてくる、俺以外興味無い、はい10個。」
「うんうん、満足!」
彼は、私が話しかけるとスマホを置き、好きなとこを言い始めると私の手を握り、言い終わると私の顔を覗いた。
私が満足と彼の目を見て笑顔で言うと、そっか可愛いね笑、と私にキスをした。
行動一つ一つに愛を感じる。大好きだなと改めて思う。
彼が好きな私をもっと知りたい。
私に感じていることの全部を知りたい。
彼にも私が好きな彼をたくさん知ってほしい。
10個で収まりきらないこの思い、言ったらさすがに引かれるかな。
いや、彼ならきっと、
「俺のこと大好きだね?可愛い笑」
こんな風に言うと思う。笑
〖平穏な日常〗
またこの時が来てしまった。
昨日までの平穏な日常と打って変わって、私が穏やかでなくなる。
ひとまず彼に連絡する。
〈ヘルプミー〉
〈どーしたの?〉
〈地獄が始まる〉
〈どういうこと?〉
〈やつがきた〉
ズーンとくる腰の痛み、ギュッと締め付けられるように痛む下腹部、動く度に感じる不快感、意味のない苛立ち、まさに地獄。
やつとは、お久しぶり〜とまだ再会したばかりだというのに主張が強い。
これは先月こなかった代償だろうか。
きっと明日と明後日の朝はやばい。
考えただけで先が思いやられる。
〈今月も俺にできること少ないけど、一緒に頑張っていこーね〉
この彼の言葉で少し痛みが和らいだ気がした。
多分今月も彼に当たってしまう。
私が穏やかな気持ちで平和に過ごせる毎日が戻るのは1週間程先だろう。