僕が君に伝えたかった言葉は、
いつも結局言えないまま季節が変わって、
いつのまにか枯葉になる。
そんなことを何度も繰り返してる。
桜の花びらがひらひらと舞い散る。
言えないまま君とは簡単に会えなくなってしまった。
「卒業してもみんなで遊ぼうね!」
言えるのはこれだけ。本心だけど本心じゃない。
本当に言いたいのはこんなことじゃなくて。
当たり前に毎日君に会えていた日常を思い出す。
明日からは当たり前じゃなくなる。
学校なんて行きたくないと何度も思ったのに、今ではそんなこと微塵たりとも思わない。
一日一日が、楽しくて大切で幸せな日だった。
枯れた葉と時間は、もう二度ともどらない。
-枯葉
「好き」
今日も言えないまま今日が終わった。
それを繰り返していたら、いつのまにか卒業だ。
もう毎日君に会えないそう考えると、目頭が熱くなった。
こぼれ落ちそうな涙を必死に我慢した。
「卒業してもみんなで遊ぼうね!」
今の私が君に伝えられるのはこんなことだけ。
大事なことは、結局最後まで伝えられなかった。
叶わないことなんて気づいていたけど、それでも楽しい恋だった。
-今日にさよなら
誰よりも君のことを理解していると思う。
僕が知っている君のこと。
いつもたっぷり寝てるはずなのにいつも寝不足なこと。
外が暗くなった頃に、カフェの窓際の席で読書していること。
バックに付けている星のキャラクターのストラップは、学生の頃から持ってるお気に入りなこと。
夢中になると周りの声が聞こえなくなること。
人よりも心拍数が低いこと。
寝てる時、近くにあるものを抱きしめる癖があること。
浅いのよりも深いキスが好きなこと。
これを言うのは気が引けるけど、
誰よりも僕のことを好きでいてくれてること。
──誰よりも
10年後の私から届いた手紙
「ん?なんだこれ」
家のポストに、赤色の封筒が入っていた。
封筒の裏側に私の名前が書いてあるだけで、それ以外は何も書いていない。
不気味に思いながらも、自分の部屋に封筒を持って帰った。
これは開けてもいいやつなのだろうか。としばらく葛藤した末、好奇心に負けてしまい封筒を丁寧にあける。
中には雑に畳まれた白い紙が入っていた。どうやら手紙のようだ。
書き出しは、『10年前の私へ』
その続きには箇条書きでひたすら、『10年前の私へのアドバイス』がずらりと書かれていた。最初は、何かのいたずらか何かだと思っていた。
が、手紙には私しか知らないはずの情報がたくさん書かれていた。例えば、『・ユウタのことはもう忘れて!新しい出逢いがあるよ!』ユウタとは、私が周りに秘密で付き合っていた元彼だ。別れた今でも私だけが一方的に好意を寄せている。
付き合っていたことは誰も知らないし、ましてや私がまだユウタのことを好きだなんて、ユウタ本人ですら知らない。どうしても忘れられないことも。
信じ難いが、これは本当に10年後の私から届いた手紙のようだ。10年後というと、私は27歳だ。
読み進めていくと、
『・親孝行を忘れずに!
・勉強しっかり!
・ダイエットがんばろう!』など、今の私より少し大人っぽい字でそんなことが書かれていた。
そしてついに一番最後の行。
『10年前の私へ
大変なこともたくさんあるけど、未来の私は割と楽しく生きてるから安心していいよ!
10年後の私より』
10年後楽しくやってるんだな。
飛び降りるのは、とりあえず10年は我慢した方が良さそうだ。
雪が降った日はよくこの場所に来ていた。
ここは屋根になるものがなくて地面もレンガでよく冷えてるから、ここには真っ白で綺麗な雪がたくさん積もる。
ここに連れてきてもらえる度に雪だるまを作る。
だから、ここに来た数だけ雪だるまが増える。
ある日、ぼくが作った雪だるま以外に、もう1つ不格好な雪だるまがあった。
「あら、チハヤ以外にもここに来る人がいるのね」
お母さんはぼくの前髪に乗った雪を払いながら、ふふ。と笑った。その日は、不格好な雪だるまの隣にもう1つ雪だるまを作った。
「お友達作ったよ!」
「上手にできたわね。もう鼻が真っ赤、風邪ひく前に帰りましょ」
お母さんに手を引かれて家へ帰った。
また雪が降った日。珍しい大雪だった。
また、あの場所に行った。
足首が余裕で埋まるほど、いつもより雪が積もっていた。履いてきた長靴の中に雪が入って冷たかった。
膝をしっかり上げて大きく歩き雪を踏むとざく、ざく、と音がした。
階段を登ると、しゃがみながら雪玉をつくっている同い年くらいの男の子がいた。
「あ」
男の子が雪玉を持ちながらこちらを見た。
お母さんがぼくの背中をぽんぽんと叩く。
「こんにちは」
お母さんに促されて声をかけてみる。
「こんにちは」
男の子はしゃがみながら頭を少し下げた。
ぼくがお母さんの方を見ると、「遊んできな」と僕の背中を押した。
「これやる」
僕が男の子に近づくと雪玉を差し出された。
「ありがとう」
意図を読み取る前に雪玉を受け取る。
「ぼく──って言うんだ!」
「おれは──、よろしくな」
ぼくは赤色の手袋で、彼の手を握った。手袋の上からでも手が冷たさが伝わった。
ぼくらが雪玉を握っている間も、しんしんと雪が音もなく振り続けていた。
銀色の髪の上で白く明るい雪が輝いていた。
「雪のってる」
ぼくはお母さんがやってくれたことを思い出し、彼の頭に降り積もる雪をはらった。
頭の上の雪が髪から落ちると彼はぎゅっと目をつぶった。「いいよ」と言うと目を開けた。
すると視線がぼくの頭にうつった。
「あんたも」
彼はそう言ってぼくの頭をはらった。
十数分経つとお互い雪玉がほどほどに大きくなっていた。
2人の使った雪玉を積み上げ雪だるまを作った。
そこらの小さな石を雪玉に飾り付け顔を作り、枝を指し腕を作ってあげた。
(上手く作れた)
心の中でえっへんと胸を張った。
「帰る」
彼は立ち上がった。
「じゃあ」
彼は手を振り、ぼくが来た反対側の階段の方を向いた。ぼくも「じゃあね」と手を振った。
「じゃあ私達も帰ろっか」
お母さんが腰を曲げぼくに後ろから話しかける。
その日も手を繋いで家に帰った。
その日から雪が降る度彼と雪だるまを作っていた。会った回数分だけ雪だるまが増えた。
はじめは不格好だった彼の雪玉が今ではほとんど真ん丸になっていた。
暖かくなり、雪の溶けが早くなった頃、あの場所に行っても彼と会うことはなくなった。
彼と会う前はずっと1人で雪だるま作っていたのに、いざまた1人に戻ると寂しくなる。
今まで彼と作ってきた雪だるまが溶けて少しだけ形が崩れていた。
何となく、下がっていた木の枝でできた腕だけを元の位置まで上げた。
──この場所で