逆光
鴉は光を浴びた
井の中の蛙が大海を知らぬように
田舎の鴉は 朝日を浴びた
彼女は光を浴びた
暗闇に紛れた暮らしの先に
無知な彼女は 脚光を浴びた
そのノートには 彼女らの闇が詰まっていた
虹色の感情がどろどろに積み重ねられて
心をそのまま描いたように 気味が悪くなっていた
黒くシャーペンで彩られた白紙の絵画には
黒鉛の瞬きがあった
今日も彼女は いつも独り
独りで知らないステージへ行く
ステージを降りた僕は
独り目を瞑る
彼女が眩しかったのか
僕が僕を見たくなかったのか
あの場所がまだ光り輝いているのかは
逆光のみが教える
特別な夜
今日、中秋の名月なんだって
……え?いやいや、あの中秋の名月だよ!?
普通の満月とは違うんだよ?
かの夏目漱石でさえ、こんな特別な夜に
「月が綺麗ですね」
なんてキザに言えないって!
「月きれいすぎない?」
くらいフランクになっちゃうって!
あーもーごめん!通話切らないでーー……
……んー、そうだよ
君と見たいからかけたんだよ、悪い?
…………
……分かってるって
話しかけただけだもん
冗談だって
え、ほんとに本気にしちゃったの?
……なわけないじゃんー!
これからの未来を歩く私が、
……君と月見るわけないじゃん……
…………ごめんね
……うん、楽しんでくる!
だから、……おやすみなさい
すきだよ。
あは、冗談
君に会いたくて
なんてね
美しい
まどろみの中見た景色が美しかった
色とりどりではない あの風景が
かっこいいでもない、かわいいでもない
ただ美しいあの風景に、映える人は多くなかった
僕には届かない舞台なのに
無性に足が前に出る
ステージの上だと足が震えるのに
無償の愛を届けたくなる
色褪せたフィルムには、憧れの中には
美しい以外に必要ないのだ
美しさに、憧れ以外の感情を、持っては行けなかった
どうして
白い壁紙の空間で
そんな言葉が響いたのです
丸く反響する声は
あなたへなのか わたしへなのか
淡い光の瞬間に
そんな気持ちが揺らいだのです
想石を投げ入れた海に
あなたもわたしも ちっぽけで
1mmの言葉を考えても
きっと答えは出ないのに
広大な未来を見るほどに
広大な過去を見るほどに
どちらに世界を見たとしても
私に選択権は無いのに
なのにどうして、あなたは私に優しくするの