行かないでと、願ったのに
まだスマホもない時代。
公衆電話のその前で。
クラスのあの子が座ってて。
僕はあの子が気になって。
昔はよく喧嘩もしてて。
世界で1番心地よかった。
僕らも少し大きくなって。
前みたいにはならないけど。
距離も自然に開いたけど。
なんとなく悲しそうだったから。
少し話して夏鼓(なつつづみ)。
ほんとに少しのこども返り。
帰り際口から零れた。
「ありがとう」と言って別れた。
なんでそんなこと言ったのか。
今でも本当に分からない。けど。
あの日から彼女はいなくなった。
本当にあった夏の話。
その頃は確か、後に付き合う女子と出会った時で。
今でも思い出すくらい混乱とifと後悔があるけれど。
あの頃の僕は本当に、人への関心を持てなかった。
今更言うのも虫が良すぎるし、酷いことだけど。
……幸せで生きてろ、ばーか。
消えない焔
息を吐くように嘯いた
その目は青
蛹が発達し幼虫ではないになった
音で遊べ
言の葉ゆらせ
一人戯れることが好きだったはずなのに
侵入者を許すな
恋に堕ちさせるな
たった一つじゃないringに
篝火を絶やさせるななことをするな
文法で遊べ
人で遊ぶな
心を遊ぶな
ああ、やめてくれやめてくれ
もう私を恋に落とすな
もう私に非を作らないでくれ
もう私は……でなければ、私は私で遊んでしまう
秘密の箱
これはなんの箱だろう
暗がりの中、私たち探索者はそれを発見した
それはきっと秘密の箱に違いない
探索者の1人が声を上げ、箱を開けようと試みた
暗がりの中、それは開かなかった
開きすらしなかった
それはきっと鍵がかかっているからに違いない
探索者の1人が声を上げ、鍵あけをしようと試みた
暗がりの中、それは開かなかった
鍵穴すら見つからなかった
それはきっと謎解きがあるからに違いない
探索者の1人が声を上げ、本を読み詠唱と錯誤を試みた
暗がりの中、それは開かなかった
狂気も邪神も目覚めなかった
秘密の箱は、依然として秘密の箱だった
一体いつになれば
私たちはそれを箱じゃないって理解してくれる?
消えた星図
私の、道標。
点と点を繋いで、ワープできる思考の旅。
とってもずるくて、子供ながら気に食わなかった。
地図も星図も気に食わなかった。
隣合った星を全て繋いで、網の目にする方が、
私は好きだった。
だから本は苦手だった。
詩が理解できなかった。
今。
私は詩の海を泳ぎ、点と点をワープしている。
この世界にはピリオドがある。
それだけを知れたから、今の私がある。
私の道標は、星すら無い地図とペン。
秋恋
落ち葉より先に風の色で気づく
秋恋の訪れ
私はこの季節が好き
季節を掴める気がするから
大きく腕を広げて、胸に閉じて
空気をいっぱい掴み取るの
心做しか涼しくて
なにか掴めた感覚がして
あともう少しだけ夏服がいいの
もう少しだけ、この風に恋していたいから