これまでずっと
「ありがとう」
その言葉で目の前が真っ暗になった。
僕はどこで失敗してしまったんだろう。誕生日に行ったレストランが気に入らなかった? それともプレゼントの方? 喧嘩もしたことがなかったけど、それが逆にきつかったとか?
「――っと、ちゃんと聞いてた?」
「う、うん?」
ああダメだ。ちゃんと受け止めなくちゃ。泣きそうだけど。
「というわけだから、これからもずっとよろしく」
「……へ?」
「だーかーら! 結婚しよってば!」
1件のLINE
「あれ、LINE通知来てるよ」
「あーうん」
「え、見ない系? 俺は赤いのついてると気になっちゃうタチなんだけど」
「私も普段はそうなんだけど」
「……なんか嫌なLINE?」
「嫌なわけじゃないけど、うーん、ほら」
「あ、既読つけちゃうんだ。わあ」
「めっっっっっっっちゃ長文なんだよねぇ」
「すごい、スクロールしてもずっと続いてる」
「いろんな話1回で送ってくるし。読むのも面倒で放置してた」
「うん、これは仕方ない」
目が覚めると
知らない天井があった。……なんていうこともなく。
起き上がってみても、昨日の夜と変わらない自室。
外はもう陽が高くなっていた。リビングは無人。家族はそれぞれ出かけたらしい。
ふらふら洗面所に向かい、顔を洗って、頭を上げると知らない人がいた。
「うぎゃっ!?」
顔を顰めて変な悲鳴をあげたそいつは、じっとこちらを睨んでくる。鏡越しに……鏡?
さっと血の気が引いた。鏡の中にはそいつしか映っていなかった。つまり。
私の当たり前
「アイスは絶対常備! 最低3種類」
「そんなに?」
「卵焼きは甘め」
「うんうん」
「朝食はご飯」
「そっか。俺はシリアルが多いな」
「夕飯は2日連続同じメニューはなし」
「えっカレーも?」
「カレーは例外」
「あはは」
「当たり前って、結構違うなぁ」
「だね。これからお互い擦り合わせていかなきゃね」
「うん。2人の当たり前を作っていこう」
「ふつつか者ですが、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
街の明かり
夏の夜はなかなかやってこない。
夜更かしする子どもたちや、寝苦しさで晩酌する大人、夜遊びする若者。煌々と灯る明かりだけでなく、一瞬で散りゆく花火の閃光も、夜を明るく照らす。
それでも、日付が変わってしばらくすると街は落ち着き始める。
家々から明かりが消えていくのを高台から眺める。
24時間営業を辞めたコンビニの電灯が消えると、夜明けまでのわずかな時間、街は寝静まった。
代わって、ポツポツと星が騒めき出した。