風も香りも全部足音

真っ白なノートをちぎって
おぼつかない文字を鉛筆で刻む
ぐちゃぐちゃに瓶に詰めて
あの子に届かないように願う
たとえ陸に着いたとしても
すぐにさらわれてしまうの
咳をして血を吐くように
身を削って言葉を刻むの
わかってくれないのは
瓶が沈んでしまったから
わかったふりをするのは
さらわれたところを見たから

鼓膜を揺らす
温度はなくても
感触はなくても
あいしてほしい。
あぁもう…
片言だって
いえばよかった。

あの子の彼は遠くに行ったらしい。
天国、もしくは離島、もしくは他の人のところ。
私には繋がっているように思える。
近くにいるように思える。
天国も、地獄でさえ、この場所から遠くない。
離島は、歩いては行けないけど、
他の人のところは、ちょっと気が引けるけど。
どうしてそこで泣いているの？
あなたも行けばいいのに。
彼のところ。
それとも、私のところに来てくれる？
私と、どこまでも遠くへ行ってくれるの？
私は置いていったりなんかしないよ。
二度と帰れなくなるまで、いっしょだよ。

蒸し暑い日の汗の匂い。
ちょっと好きだった。
可愛い子から汗の匂いがするのが
不思議で面白かった。
汗くさって笑い合うのも楽しかった。
制汗剤のいい匂いも好き。
あーでも夏は嫌い。
夏休みは堕落しきって
人間性を失う。
蒸し器に入れられたみたいに
いっさい動かなくなって
あの子に会えないの。