灯りがぼおっと付く満月の夜
暗い道を独りで歩く私の近くに、優しく吊るされた提灯が道を照らしていた
提灯の方に寄ると、そこは小さな蕎麦屋
私に気付いた店主が、軽く挨拶をする
「一人ですかい?」
「ああ…はい」
「そこ、どうぞ、」
「すみません…ありがとう」
「メニューはなんにしましょうかい?」
「じゃあ、日本酒をコップ一杯、蕎麦も」
「へい」
店主の、蕎麦を作る姿を眺めていると、突然問いかける
「ようこんな店を見つけられましたねえ、灯りがちっぽけだもんで、みんな通りすぎるんですわ」
「まあ、月明かりよりは明るいですからねえ…」
「ほないですか」
店主は深く頷いた
やがて、出来たての蕎麦と、酒が置かれる
蕎麦をするすると啜り、酒を一口
「旨いです…!」
「そりゃあ、よかった」
にぃと笑う店主の顔
食べ終わり、お金を払って店を出ようとすると、店主が呟く
「また、きんといてください、いつかまた会えたらですが」
「ええ、モチロン、いつか…また満月の日ですかね」
「満月の日ですか…そうか…」
店主に挨拶をして、軽く後ろを振り返ると、蕎麦の灯りが消えていた
満月の灯りも雲に隠れていた
「ねえ、おはなすき?」
「うん!すきだよ!」
「そっかあ、じゃあこのおはなあげるね!」
「わあああ!きれいなおはなねえ、ほんとうにいいの?」
「いーよ!きみのためだもん」
優しく笑う顔立ちに思わず見惚れていたら
はっと目が覚めた
そこには、潤んだ瞳の貴女の顔
「私、夢の中で何か言ってたかしら…?」
「いや?君の可愛い寝顔に見惚れていたよ」
「変なこと言わないでっ」
恥ずかしくて、顔を背けると、貴女はふっと一つ笑う
「これいる?」
「なあに。これ」
「花束」
「良いの?これ」
夢のように呟く
「良いよ、君の為なら」
あの頃のように
優しい笑顔で
貴女がいる日々
貴女と笑える毎日
貴女と喧嘩する月日
貴女と愛を循環する年月
すべてが愛おしくて
泡のように消える、夢
貴女がいない夢は
ぜんぶ、線香に上書きされて
あたしはいらない子なんだって
親はあたしを愛してくれない
愛を貰ったことがないの
辛い?知ってる
苦しい?分かってる
寂しい?そうだよ
構ってもらえるまで
あたし生きられるかな
君は僕にとって大切な人
髪も瞳も肌も匂いも
全てが愛おしい
全てが僕にとって大事なもの
最愛で最期の人
僕は、君を見るだけで胸が高まる
高まって鳴り止まない
僕の大好きな
最愛な人
いつまでも僕の隣で
笑っていてくれ