戻れないのは
できないことへの恐怖だと思っていた
逃げたいのは
落ちることへの恐怖だと思っていた
でもはたと気づく
それほどの恐怖が潜んでいたか?と
戻れない場所へは
大した恐怖を抱いていない
むしろ好奇心が満たされる場所でもある
逃げたいことへも
大した恐怖は抱いてなかった
正直、屁の河童だ
では何が恐い?
…地獄へ引き戻されることが最も恐い
恫喝され
まだ生きていることを非難され
死ななければいけない人間だと思い込まされ
この世のすべての責任は自分にあり
己は死刑囚だと…
誰にされるでもない
すべて自分からされる
目が覚めてから寝るまで
耳を塞ごうが頭の中で響く
「違う!」と叫んでいた声までもが
最後は裏切り己を壊す
正義感や責任感が強いほど
深く己を傷つける
私にとって最も死に近く
死と隣り合わせだった地獄の1年
あの地獄がまた来ることが
私は本当に恐ろしい
文字が読めなくなったことがあって
それ以降、活字がちょっと苦手なんです
先に行動できる人は
出遅れる人の気持ちがわからない
先に行動できてしまう人には
出来ない人の気持ちがわからない
前者の気持ちしかわからない人々は
後者が抱える苦しみに気づかず
そもそも苦しみさえ感じないと錯覚する
私には両者が見える
錯覚した人々は
失望の目と声で排除する
排除された人々は
助けを求められようと
二度と戻っては来られない
理由はない
理由がないのに、ため息が出続ける
理由はない
理由がないのに、落ち込んでいく
すがるもののない感情は
どこに流れていいのかも分からず
腹の中に気持ち悪さ、苦しさとして溜まっていく
なんでもいい
なんでもいいから
プスッと腹に穴を空けて
この淀みを流し出したい
七夕を迎えた今日の丑三つ時
私は悪夢を見ていた。
いや、あれは悪夢ではなく
実際に起こったことだ。
……ン。…スン。ドスン。ドスン。
ゆっくりと繰り返す地響きで目を覚ました。
だが異様な空気を感じて目は開けなかった。
闇のように重い空気が私を包んでいる。
寝ている私の周りを巨大な何かがゆっくりと
軽い地震くらい地面を震わせながら歩いている。
ドスン。ドスン。ドスン。ドスン。
明らかに異様な存在を前にして
私は恐怖から体を硬直させ
寝ている振りをし続けた。
なぜかって?
起きているとバレたら私は死ぬ。
姿を見ることができないその巨体は
時折私のことを覗き込んでいるようだ。
肝を冷やしながらも平静を装い寝続けた。
何周した時だろう
除湿器が稼働を始めたと思った途端
巨体も重い空気感も姿を消した。
でもまだ油断ならない。
私は目を開けられなかった。
そしてまた重い空気とともに
巨体の地響きが私を震わせた。
死ぬ…。死ぬ…。
目も開けられなければ
体を動かすこともできない。
あまりの恐怖に私の脚は震え始め
バレたら終わる…!という思いが
私の拍動をさらに速めた。
地響きしか聞こえない世界で
私の心音だけが全身から響きわたる。
しばらくすると気配は消え
普段の軽い空気があたりを包む。
それでもまだ固く目を閉じていた。
さすがにもういいだろうと思った私は
恐る恐る目を開き時計を確認した。
時刻は午前3時頃を指し示していた。
そして今度こそ寝るために目を閉じた。
寝られず寝返りをうったその時…。
あたりを重い空気が支配した。
もう勘弁してくれ…。
息を潜めつつ寝た振りをする。
今回は巨体はいないらしい。
しばらくすると空気が軽くなった。
それを何度か繰り返したのち
空気が重くなることはなくなった。
時刻は午前3時半過ぎ。
外が白み始めていた。
部屋に光を入れたくて
カーテンを15cmほど開ける。
また眠りについたところ
もう重い空気に支配されることはなかった。
目覚ましの音で目を覚ました。
光を感じカーテンの方を見やると
そこには15cmほど開けられたカーテンがあった。
これは悪夢なんかじゃない。
執筆のための創作でもない。
これは今日現実に起こったこと。
お願いだから、信じてほしい。