わくわく
背もたれ周りの機械を
ついキラキラとした目で見回してしまった。
「まるで子供みたいだね 笑」
歯科医のおじちゃんに笑われる。
やってしまった…。
いい歳になった大人がまるで子供のように…。
身体は老け込み始めたが
精神からはまだ子供が抜けきっていない。
たしかに子供の頃、
ことごとく「忘れた」を武器に
子ども心を分かってくれない大人達を見て、
「絶対に子ども心を忘れない大人になるぞ!」
と誓いはした。
誓いはしたが…、本当に忘れないとは。
時折恥ずかしくなってしまう。
だが、ま、子供達には誇れる大人になれたのかもしれない。
そう思って恥ずかしさを忘れることにした。
(題目しらず)
闇のなかを電車が走る
架道橋から眺めるそれは
窓から漏れた微かな光(ひ)が
横に流れる線路を照らし
おぼろ電車と揺れる線路が
ゆらゆらぼんと流れていく
淡く儚いその光景を
過ぎ去りしあとも眺めゆく
「ぼくがお母さんを助けてあげる!」
母にとっては重くもない買い物かごを
半ば奪い取るように両手で抱え上げる。
母のお礼が耳に届かないほど、
それは一生懸命に全身の力を振り絞って
買い物かごを持ち上げ歩いた。
ただただ、役に立ちたいと。
誇らしい息子でありたいという気持ちで。
そんなことも忘れ育ち。
何の役にもたたず、
ただただそこにいるだけの人間に成り下がった。
家のことなぞ母がやってくれると…。
そんな月日を過ごしていたところに、
母が余命宣告を受けた。
唐突だった。
何をしてやれば母のためになるのか。
初めて本気で考えた。
だが悔しいことに何も思い浮かばない。
これまでも一瞬だけ、何かしようとは考えた。
でもやることなすこと他人よりレベルが低い。
それに気づいた瞬間、諦めた。
自分が役に立てると思えなかった。
誇らしい息子でいたい。
誇らしさで、満たされたいのに…。
…しかたがない!
時間がないんだ。
久しぶりに見たその顔は
とても穏やかなものだった
いつもどこか疲れた表情をしていたのに
憑き物が落ちたような
清々しさ?いや、晴れやかさ?
いや、安らかさを感じさせる顔をしていた
久しぶりに見るどこまでも真っ直ぐな
けれども暖かみのある優しい目
その瞳にあてられて
こっちまで心穏やかになる
安堵した空気が
二人を包んで取り囲む
永遠に続くわけもない
けれどその時間を切望するでもなく
ただただ夢中で見つめ続けた
互いのその安らかな瞳を
私があそこで出会わなければ
最愛の人を不幸にしなかったかもしれない
私があのとき運命に抗わなければ
出会わなくてすんだかもしれない
そのかわりこの世にもいない
出会った時から思っていた
犬になって出会いたかったと
忠犬としてそばで支えたかった
人である必要はなかった
ただ、主の幸せを、笑顔を、癒しを
傍にいて守りたかった
ただ、それだけだった
何度も伝えたんだけどね
毎回断られてしまった
人でなきゃできないことがあるから
犬になってはダメなんだとさ
はてさて、どうしたものか