距離
他者とは距離を置かねばならない。私たちはこどものころからソーシャルディスタンスを学ぶ。いつからそうなったのかも一応学ぶ。コロナという肺炎が流行ったころからだと教科書に書いてある。私は中学校の教室で、適度な距離をあけて隣のクラスメートと話をする。私はいちばん仲の良い彼女とも触れ合ったことがない。いつでも私とあの子のあいだには適切な距離。…先生。適度な距離、適切な関係とはなんですか。ハグをするのは大切な人とだけと教わりました。大切な人は友人でも同性でもいいのではないのですか。…本当の私は先生にそんなこと聞けなくて彼女と今日も適切な距離をとる。彼女は鳥のように首をかしげて微笑む。適切な距離。適切な距離。私は呪文のように唱える。他者とは距離を置かねばならない。でも、彼女はたぶん私にとって他者じゃない。
泣かないで
泣かないでと言うのも言われるのも嫌いだ。泣きたい人は泣けばいい。泣いてるのを見たくないなら泣く原因を考えて悪い涙ならその原因を取り除けばいい。そりゃ簡単なことじゃないけどさ、なんてひとりごちたら涙が出てきた。しかも止まらない。別に悲しいわけでもないのにとろとろとろとろ涙が出る。これは病気じゃないかと思って眼科に行くと、駐車場はいっぱいで病院入り口から長い列が伸びて、みんなみんな泣いている。何事かと列の一人に聞いてみると日本中でみんな涙が止まらなくなったらしい。天の誰かさんは「泣かないで」と思ってたりするのだろうかと空を見上げれば雨がぽつぽつと落ちてきた。この雨はやまないのではないかと嫌な予感も落ちてきた。
微熱
微熱が続くのと言う少女の体温は13度、蜥蜴人なんだから微熱なんか気にしないで早く寝なさい、冬が来るよ。
冬になったら
「冬になったら」とは夢見がちすぎる。この土地に…いや、はっきりいうべきだろう、この星のこの土地に冬はこない。冬をもたらすファンタスティックな存在と、冬をもたらす科学を追求した存在と、それらが同等に思えるほど我らはどうしていいかわからない。ファンタジーと科学が手を結んでここに春を作れると言い出したので領主である私は怖い。こいつらに春を作らせていいのだろうか。作らせなかったら私はひどい主と言われそうだ。
子猫
子猫じゃなくて老猫とかバチ猫とかだったら書く気になるんだけどなあ。こねこ。子猫の話ってなんかあったっけ?
ところで「子子子子子」と書いて「ねこのこねこ」と読んで歌舞伎の女鳴神の一種らしいんだけど調べてもよくわからない。「子子子子 子子子」とか「子子子子子子子子子子子子」は検索するとすぐ出てくるのになあ。歌舞伎の鳴神は面白い。ハニートラップに引っかかった鳴神上人が怒り狂うお話で、ほとんどラノベである。そういう面白いネタを女主人公にしてみましたというのが女鳴神で、やっぱりラノベである。歌舞伎ってとってもラノベ。
いやなんの話だっけ。子猫だ。子猫は神なので人は子猫について語ってはいけないのである。