佐々宝砂

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10/28/2024, 11:30:41 AM

暗がりの中で

暗がりは毎日ある。ないと言う人は夜がない土地に住んでるんだろう。そういう土地がないとは言わない。太陽が5個くらいある惑星系だとあんまり夜こないんじゃない? アイザック・アシモフにも「夜来る」ってお話あったよね。

そう、普通に生きてたら毎日暗がりがある。暗がりは昼日中にもあって、それはたとえばカクレンボにほ楽しい空間だよね。

そういう問題じゃないと?

うん。気づいてた。きみは暗いとこにいないと生きられないと、そう、そうだよ、そう思ってるんだよね?

じゃあいまからぼくと南半球真夏ツアーに出かけよう。君の知り合いは誰もいない。きみを指さし妖怪や悪魔扱いするやつもいない。きみが本当に明るい日差しがだめなのかはビーチで日差しに当たってから決めよう?

※※※

ていうかこんなのより私が書いたせなけいこ追悼文読んで!

せなけいこさんが亡くなった。代表作「ねないこだれだ」も好きだけど、めがねうさぎもばけものつかいもすきだった。「きれいなはこ」が特に大好きだった。こどもがはじめて出会う異形の絵本は、子どもが異形と化す絵本でもあった。せなけいこさんの絵本の中ではオバケもかわいい猫も犬もこどもも等価なものであって、オバケだから怖がられることもないかわりに、こどもだから特にかわいがられることもなく、こどもも排除される恐ろしいものになりうる恐ろしい世界を描き、それでも読者に愛される不思議な絵本を作った人だった。

「きれいなはこ」はきれいなものを自分のものにしようとして異形になってゆくわんちゃんやなんかを描いて本当に怖かった。落語に取材した「ばけものづかい」ではばけものの気持ちがわかって不思議な気がした。「めがねうさぎ」はうっかりめがねを天ぷらにするうさぎが本当にバカバカしくて親近感が持てて楽しかった。

でもやっぱり、せなけいこさんの最高峰は「ねないこだれだ」なんだと思う。夜を怖いと思う気持ち。でも夜を起きていたい気持ち。そして夜を起きているとオバケになってしまうというあの恐怖。

せなけいこさんはもう長く生きたのでゆっくりお休みしてほしい。でも気が向いたら、この世にときどきやってきて、オバケとしてみんなをびっくりさせてほしい。

10/27/2024, 11:29:37 AM

紅茶の香り

こいつはコーヒーより紅茶が好きなんだ。それは知ってるけど、うちには紅茶がない。あるのは緑茶とインスタントコーヒーだ。飲み物にはあんまりこだわらないんだよ。というかこだわるのがめんどくさい。違いなんてわからない舌のほうが安上がりだ。飲み物を出さない言い訳を必死に考えていたらキッチンから紅茶の香りが漂ってきた。

「あなたのことだから気の利いた飲み物なんてこの家にはないんでしょう? あたしがティーセット持ってきて淹れてあげたわよ。アールグレイ。よく味わってお飲みなさいな」

コーヒーがいいと言ったら怒られそうだな。

10/26/2024, 10:31:51 AM

愛言葉

愛言葉というタイトルで書ける気がしない。合言葉なら書けたと思う。そも私は愛が入ってるタイトルで書ける気がしない。「愛憎」でも無理だと思う。あ、でも、「偏愛」なら書けるかも。あとたぶん同性愛でもまあ書けるっちゃあ書ける。書かないけど。愛なんて適当に扱えよ。そんなものにこだわると消化が悪くて腹壊すよ。まして愛と言葉を考えもなく組み合わせたら下痢するのは間違いない。愛と言葉を組み合わせるのは難しいんだよ。単純に愛と言葉を合わせて愛言葉とかヒッジョーにつまらん。もっと面白いお題をよこせ。

10/25/2024, 10:39:08 AM

友達

「あたしたち友達よね!」
明るい声で適度にボディタッチしながらいうこの女の子は人間じゃない。AIによって動かされている疑似人格をインストールされたアンドロイドだ。私としてはアンドロイドの友達がいても別にかまわないというか気にしてたら友達なんか作れないのでにっこり笑ってうなずく。私は中2で今日は合唱祭なのね。でも私は知ってる。人間はもう数少なくなってて、私のクラスメートも半分は人間じゃない。でも私は今日みんなで歌った合唱はほんとよかったと思う。半分がアンドロイドでも…アンドロイドの子たちは音程が確かだから私たち人間もアンドロイドがいるとすごく楽に音がとれるんだよね。でもアンドロイドの子たちは私たち人間がいると感情のこめかたがわかりやすくなるっていうの。アンドロイドはきっと私たちのよき友達なんだと思いたい。こんなに素晴らしい時間を共有できるのだもの。

10/23/2024, 10:48:04 AM

どこまでも続く青い空

青い空はどこまでも続かない。物理的に考えて当たり前のことだ。青い空がどこまでも続くように思えることはある。

たとえば、それは、こんなとき。

頭部の三分の一を共有する結合双生児の女の子たちが、空を見上げて歌っている。足をなくしたスイマーが湖を泳ぎきってピースする。下半身が動かない車椅子バスケの選手がシュートを決めて笑う。

青い空は続かない。続くように思えたらそれは幻影か、あるいは、人間がなした仕事の結果だ。青い空は続かないのが自然なのだから、それが続くとしたら不自然なことで、つまりそれこそが人間の仕事なのだ。

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蛇足。

今年の4月に結合双生児であるロリ・シャペルとジョージ・シャペルが亡くなりました。歌手であるジョージが明るく晴れた公園でたくさんの人に囲まれて歌う動画を見たとき私は、この動画みたいに幸せな一瞬は人生で何回もないだろうなと思いました。青い空は続きません。幸せも一瞬。でもそれでいいんだと思います。

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