佐々宝砂

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6/22/2024, 10:58:46 AM

日常

6時半にアラームが鳴る。あくびしながら顔を洗って階下に降りる。洗濯機を回す。燃えるゴミの日だからゴミを集めておく。畑で茄子を採ってごま油で焼いて焼き茄子の味噌汁を作る。納豆に混ぜる用の青ネギを切る。こどもと夫と父が起きてきて食卓に座る。いつもの平和な日常の食卓に。私のなかで何かが爆発する。私はダイニングテーブルをひっくり返し、台所にあるあらゆる刃物を投げる。私の鬱屈を何一つ察しないまま私が作った飯を食べる愚かものども。

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と、ここまでは創作でここからは無駄話です。焼きナスの味噌汁は、ナスを炭火で裂けるまで焼いたのをぶっこむのが最強においしいと思いますが、一般的にはごま油で焼くのがおいしいと思います。私は豆腐も一緒に焼いて味噌汁に入れるのが好きです。出汁は煮干しの粉で簡単に。美味しいのは間違いない。でも…たまには…誰かに作ってもらいたいなあ…というのが私の普通の日常です。という文章に感心してくれたあなた! 私の文章はだいたい非道か残酷か人間無視かそんなんです。真面目にそんなんです。どうかよろしく。(よろしくするんかい!

6/21/2024, 10:11:53 AM

好きな色

そこにない色が好きなんだ。具体的にいうとたとえば構造色だよ。モルフォ蝶の羽根、オパールの遊色、アンモライトの光彩、油膜、ビスマス結晶、鉄バクテリアの酸化皮膜。青にも赤にも緑にも見える、ああいう色が好きなんだ。まるでこの世にないようなそこにない色。ほら見上げてごらん、あれこそが僕が愛してやまない色、名状しがたい宇宙からの色、異次元の色彩! アーカムに落ちたあの色。きみもあの色に染まれ。

6/20/2024, 10:36:19 AM

あなたがいたから

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残酷描写があります。

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あなたがいたから生き延びることができたのです。この氷に閉ざされた島に、あなたは私と一緒に打上げられた。覚えてはいないけど、あなたは私と同じ船に乗っていたのでしょう。当初私は淋しくて息をしていないあなたに何度も話しかけました。救助された私は島に向かって手を振ります。ありがとう、名前も知らないあなた。あなたが持っていたライターで焚き火を熾しました。あなたが持っていたカッターであなたの肉を削ぎ落として焼いて食べました。あなたがいたから私はいま生きています。

6/19/2024, 10:47:12 AM

相合傘

相合傘は肩が濡れてしまうから嫌いだと思いながら、道の先を行くきみを見ている。きみと相合傘したことが一度だけある。きみが覚えているかわからないが僕はあのとき雨に濡れたきみの髪が僕の首に貼りついたのを覚えている。今、きみの相合傘の相手が誰かわからない。僕は足を早めて追い抜きながら相合傘のふたりの顔を盗み見る。きみは柔らかく笑っていた。それはいい。相合傘の相手の顔が黒く塗りつぶされた穴のように見えた。それは僕の心のせいなのか、それとも本当に黒い穴のような何かだったのか。

6/18/2024, 10:56:20 AM

落下

古めかしい塔を登りきり、手すりを乗り越えて落ちる、ひゅんと背筋が冷たくなるような落下の感覚、でも落下の衝撃はない。衝撃がないことに安堵して覚醒し、自分が布団で寝ていることに気づく。以前はそんなことがよくあった。ミオクローヌスというのだと思う。寝入る前にもよく落下の感覚があった。今はない。夢の中の私は落ちるところまで落ちたのでもうこれ以上落ちないのだろう。あの落下の感覚がなつかしい。

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