ささほ

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6/19/2024, 10:47:12 AM

相合傘

相合傘は肩が濡れてしまうから嫌いだと思いながら、道の先を行くきみを見ている。きみと相合傘したことが一度だけある。きみが覚えているかわからないが僕はあのとき雨に濡れたきみの髪が僕の首に貼りついたのを覚えている。今、きみの相合傘の相手が誰かわからない。僕は足を早めて追い抜きながら相合傘のふたりの顔を盗み見る。きみは柔らかく笑っていた。それはいい。相合傘の相手の顔が黒く塗りつぶされた穴のように見えた。それは僕の心のせいなのか、それとも本当に黒い穴のような何かだったのか。

6/18/2024, 10:56:20 AM

落下

古めかしい塔を登りきり、手すりを乗り越えて落ちる、ひゅんと背筋が冷たくなるような落下の感覚、でも落下の衝撃はない。衝撃がないことに安堵して覚醒し、自分が布団で寝ていることに気づく。以前はそんなことがよくあった。ミオクローヌスというのだと思う。寝入る前にもよく落下の感覚があった。今はない。夢の中の私は落ちるところまで落ちたのでもうこれ以上落ちないのだろう。あの落下の感覚がなつかしい。

6/17/2024, 10:51:17 AM

未来

未来?それどこで売ってるの?とz世代の13歳が言う。未来は売り物だからアマゾンかメルカリで売ってるよとバブル世代として僕は一応答えておく。まだまだ元気な団塊世代(僕の父)が未来は冷凍庫に凍らしてあると言い出す。冗談じゃねえ、未来は売ってないし凍らしてもねえ。未来は常に僕たちの前にあり瞬間ごとに分裂して無限に分岐する可能性だ。だからこそ僕たちは未来に自分をゆだねる。

6/16/2024, 10:45:41 AM

1年前

1年前、たった1年前のことだ。道を歩いて買い物に行けた。インターネットでお喋りができた。LINEもXも生きてた。水道も電気もちゃんとしてた。人がたくさんいて道はよく渋滞して、信号待ちにもイライラしてた。たった1年前のこと。私は闇森で確保した今夜の食い扶持の野ウサギを下げて家に向かう。何もかも変わってしまった。あの特異点のあと私たちに安寧はない。私はもう私の子を大学にやることができない。

6/15/2024, 11:28:57 AM

好きな本

好きな本を数えられるような人生は送ってねえ。好きな本のタイトルをすべて挙げられるような人生も送ってねえ。おう。俺は知ってるよ、これは自分が記憶してる本を切り札にして戦うゲームだってことをな。それを全部承知したうえで俺は俺のカードを切る。俺が最も愛した本、ルースっていう女の子がアルバイトしながら綴ったドラゴンの物語をあんたは知ってるかな、エルマーが主人公だよ俺が好きなヒーローは未だにあれさ。おやすみ。

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