ごめんね。このお題は書く気にならない。
「ごめんね」
半袖
自分の半袖の発音は標準語とアクセントもイントネーションも違う。違うのはわかってるの。わかってるけど私の発音で言うのよそれが私にとっての半袖だもの!と力説するきみをぼくは微笑ましい思いで見つめる。アクセントが違うくらいかわいい。うん、本当にきみはかわいいよね。ぼくはまず発音、いやそれより先に音声とは何か学ばねばならなかった。ぼくがいた異なる世界に音はないんだ、でもかわりに����があるよ、愛するきみに����を贈ろう。
天国と地獄
走り出す。だってこの曲が流れたら走るしかない。運動場は明るくトラックは小豆色と抹茶色、ぼくは走る。なんで走ってるんだろう。走らなきゃならないことはわかる。ぼくは前の選手を追い抜きトップに躍り出る。歓声が心地よい。こんなに楽しく気持ちいいことはあんまりないだろう、と思う間もなく背後の選手がぼくを抜く。追いつこうとがんばる、しかし離されてゆく。離されてゆく。苦しい。死にそうに苦しい、と感じた刹那、ぼくは自分がすでに死人であることを思い出す、でもやっぱり、ここが天国なのか地獄なのかわからない。
月に願いを
「月に願いをかけてみたらいいんじゃないの?」と笑ってアイツはねぐらに帰っていった。見上げる夜空に月はいくつあるんだったか。というかここは衛星だ。もっと詳しくいうと木星の衛星であるガニメデの前線基地だ。見上げる夜空に巨大な木星。そしてあちこちに衛星…と思いかけて俺は気づく。あれは衛星だ。ここは衛星だ。でも、月はただひとつ。地球の周りをまわる。俺は遠く見えないただひとつの月に願う、アイツが明日も笑ってくれますように。
降りやまない雨
やまない雨はないけれど、世界のどこかでは雨が降る。たとえ地球の降雨量がゼロである瞬間があるとしても、宇宙のどこかでは絶対に雨が降っている。硫酸の雨が、鉄の雨が、砂の雨が、ガラスの雨が、ダイヤモンドの雨が、宇宙のどこかで降り続ける。雨は降りやまない。宇宙が熱死を迎えるまでは。