ある所に天を衝く高さの塔がありました。
そこには墓守が1人で住んでいました。
「なァ。お天道さんよ、ちったぁ泣きすぎじゃあないかい。
塔の中の墓ごとみぃーんな持ってっちまったのに
まだ、足りやしないかい」
空がずっと泣いているので、元々あった町や村、塔の中までも
水に沈んでいたのです。
“恵の涙”と有難がっていた人達も湖や川が氾濫し始めたので
たくさん儀式を行い、贄を捧げても空が鎮まる事はありません。
それからたくさんの人達が水に飲まれたり自らを捧げる人がいて
墓守は忙しく過ごしていましたが、気付けば自分以外
誰も残っていませんでした。
「オレもそっちに行きゃあ満足するかねェ?--そうかい」
墓標となった塔が佇む世界は静かに水を湛えていました。
#降り止まない雨
学校の帰り道。
いつも通る裏道で渡された一通の手紙。
“手紙を受け取ったなら回り道”
“目の前のモノから今すぐ逃げろ!!!!!”
僕は顔を上げず踵を返し弾かれた様に走り出した。
あの近道はもう使えない。
#あの頃の私へ
誰かに手をとってもらいたくて
必死に必死に伸ばした腕は指先から崩れ落ち
底なし沼に沈む様に足の力が抜けていく。
「誰か助けて」と叫んだ口からタールが溢れ
いつまでも救いを求め朽ちた身体で彷徨う私は私に囚われた。
#逃げられない
空が白み始めて楽しい時間も、もう終わり。
顔を出し始めた太陽に「おやすみ」と
西に霞んで行く月に「また今夜」を告げ
纏わりついた眠気ごと毛布に包まり
微睡みの底に落ちてゆく。
#また明日
空を見上げていただけなのに。
「どうかしたの?」
なんて、おかしなことを言われたわ。
私はただ空を見上げていただけなのに。
行き交う人がジロジロ見てる。失礼しちゃうわね。
「どうかしましたか?」
何もしていないわ。放っておいてちょう、だい…。
はたと気付いて見渡せば、
みんなの瞳は真昼の月を映した硝子色。
ああ…。どうかしていたのは私の方。
みんな、“同化”してしまったのね__。
#透明