(やさしい雨音)
ふと目を覚ましたら、
しとしと、雨が降っている。
隣に眠る君の温い体温を、寝息を感じながら
もう一度寝なおそうと、
やわらかな腹の毛に顔を埋めた。
(手放す勇気)
生涯、貴方に追いつきたくて、
手段も選ばず、何でもしました。してきました。
決定的に道を踏み外すとわかっていても、
どうしても、どうしても追いつきたくて。
道を踏み外し、道無き道を往く私を、
貴方に止められてしまいました、
いえ、 止めて下さった。
ほんとうは、貴方に、
そんな顔をして欲しかった訳じゃないのです。
最初は、そうでした。
それがどんどん変わっていって、
途方もない執着心に変わって、
貴方に追いつきたい一心で何もかも投げ捨てて、
おろかでした、ほんとうに。
だから、手放します本当に何もかも。
貴方への憧れも、羨望も、嫉妬も、 愛慕も。
執着してきたなにもかも。
でも貴方が、幸せである事だけは祈らせて、
頂けると嬉しいです。
さようなら。
敬具
(酸素)
人より何でもできてしまうものだから、
頼られる事が多かった。
別に苦ではなかった。
けれど、手助けするのが当たり前のようになってきて
動き回る事が多くなってきた。
それでも私には全てできてしまうのだけど。
当たり前と思うのと同じに、少し疲れる事もあって。
そんなおり、君と出会った。
他の人とは違って、何でも自分でやる君。
私ほどではないけど何でもこなす君。
きっと好奇心が旺盛なのだろうと思った。
気が合うかもしれない、と少し期待した。
その、きらきら眩しい君を見ながらそう思った。
…出会ってから数年、
私にとって君は酸素のようなものだった。
そう思っていた。
君がいないと生きていけないと思っていた。
…実際君がいなくなっても、私は生きていた。
心の底から悲しい、寂しいけれど、
叫びたくなるほど狂いそうだけれど、
私は君の分も生きていかなくてはならなかった。
……そう納得する自分の頭が嫌でたまらなかった。
君がいなくなった後、
こんな脳みそ酸素不足で死んで仕舞えばよかったのに
(届かない……)
貴方を超えたかった、
生涯手が届くことはなかったけれど。
貴方から見た私は愚かだったでしょう、
貴方への羨望、妬み、怒り、醜かったでしょう。
貴方は呆れ果てていた事でしょう、
嗤っていましたものね。
…あァ、それでも、
最期、私はとても穏やかな心中だったのです。
手を伸ばした貴方の、その顔をみて。
貴方でもそんな顔をするのですね、
何故私に向けてなのかはわからないけれど。
そんな顔をする貴方は見た事がなかったから、
ざまァみろと嗤いたかったのだけれど。
声が、でなくて。口角を上げることしかできなくて。
貴方から見た私はどの様な顔をしていた事でしょう。
……醜くなければ、いいのだけれど。
(木漏れ日)
麗らかな日差しがはいる窓際のソファに、
貴方の体温を隣に感じながら微睡むことの
なんと心地良いことか。