(どこへいこう)
心地良いさらりとした風に目を細める。
ふわりとした暖かい日光に当たりながら、
こんなに天気がいい日はどこへいこう。
ちかり、と携帯の画面が光る。
愛しい君からのメッセージ。
君からデートのお誘いなんて!
今日はとてもいい日だ。
さっそく格好良く支度をして
君のもとへ行かなくては。
すぐにメッセージを返して
ばたばたと支度に走る。
(big love!)
まるで夏の天気雨みたいに
ころころ変わる君の表情。
微笑んだり、怒ったり、時には泣いて、でも笑って。
それを可愛いな、なんて遠目から見ていた私と、
目があって、微笑んで、
私の名前を呼んでくれた時といったら!
心臓が痛いほどぎゅうっとして
苦しいほど君のことが好きなんだと
一等自覚したんだ。
(情けない顔をしてるなぁ…)
(…どうされました?)
(ささやき)
何のために?
…万物衆生のために。
救う価値はあるか?
…手の届くものは掬い上げているだけだ。
奴等はお前に痛みしか与えぬのに?
…そんなの気にはしない。こんな自分にだって暖かい人は いる。
甚だ馬鹿げた事を!
…馬鹿げているかは自分が決める。
お前が憧れているあいつはお前など眼中にないだろうよ。
…そんなのわかっている!
そんな偽善をしたところであいつになれはしないのに!
っ黙れ!!!そんなことのために生きているんじゃない!
本当に?
…違う、ほんとうに、私は、力になりたいだけで、
ああ、ほら、あいつらが囁いているぞ。
…、……、………………。
(遠くの声)
茜色の空を尻目に子らと帰路を辿る。
ふと、呼ばれた気がして振り返れば
空には一番星。
もう手の届かぬ星を、じっと、見つめて、
────……えぇ、いま、いきますよ。…帰りましょう。
子らに呼ばれて、帰路に戻る。
もう、声は聞こえなくて、振り返らなかった。
(春恋)
花咲き乱れ、桜舞う中、
遠く南から登ってきた君の黒曜石のような瞳。
その瞳から溢れんばかりの輝き!
不敵な微笑み、凛とした立ち姿。
春嵐のような恋だと、その時自覚したのです。
…一目惚れでした。