毎朝のルーティン。
顔を洗って、服を着替えて、メイクをして。髪も整えなきゃ。
朝ごはんは時間によるけど、出来ればあったかいものを食べたい。
片付けは夕飯と一緒にするように、未来の自分に任せておこう。
靴を履いてから、最後に玄関でパカリと蓋を開く。
耳にかけて、鼻を合わせて、口を開けるゆとりがあるかを確かめて。
鏡の前で最終チェック。目尻を下げた様に見せるのは案外難しい。
「行ってきます」
『スマイル』
ここには、なにもない。
どこにも、だれにも、ないのだから。
指を躍らせ、滑らせ、腕すらも動かせば、ただそれだけでいい。
『どこにも書けないこと』
カチ、コチ、カチ、コチ、カチ、コチ、
カチン、カチン、
すーーっ
ピッ、ピッ、
針は刻み、進む。
前にただ進みゆく。
1日1歩、3日で3歩。後ろには下がらず、ただ道が出来るだけ。
私の想いも、時と共に前に進めるだけだ。
どれも、これも、すべて。
ところで、
1秒に1回。
成人の心拍数はそんなもんらしい。
うるさい時計は殴れば転がって、電池が飛び出したり、あらぬ方向にへしゃげたり。動きは止まって、機能が止まる。
鳴り響く心臓は殴っても、ただ同じ拍動を返してくれるだけ。
そういえば最近は、殴っても止まらない時計があるね。ただ動き続けるあれは、なんのために時を刻むのか、考えたことがあるのだろうか。
あーあ。腕が痛い。
『時計の針』
どうしてお腹は空くんだろう。
どうして眠くなるのだろう。
どうして、目は覚めるんだろうか。
息をしないこと、鼓動を止めること、血を流し続けること。
なんで出来ないの?
どうして勝手に動くんだろうか。
どうして勝手に治るんだろうか。
こんなにも、こんなにもやめてしまいたいと願っているのに。
「それは身体が生きたがっている証だ」
そんなこと言われたって、心はこんなに、やめたがっている。
『溢れる気持ち』
僕には似合わない真っ赤なルージュ。
お母様から戴いたものは、すっかりなくなってしまったから。
今日は新品を開けよう。
香水もふた振り、教わった通り。
丁寧に、綺麗な跡がつくようにそっと顔を寄せる。
白い肌に、綺麗な薔薇が咲く。
「お届けものです。」
そっとドアの隙間から投げ込んだ。
『Kiss』