私の家の窓から見える景色は、空と隣人の畑と人工芝が敷かれた我が家の庭。そして、フェンス越しの共用駐車場。
ありふれた景色だと思う。代わり映えのしない景色なのだから。けれど、4年も住んでいれば、愛着は湧くものかもしれない。
空と隣人の畑ぐらいの変化しかないとしても、それでも楽しむことはできる。
変化するのは、空が大きいだろう。青空だったり、曇りだったり、雨だったり、その日の天気によって変わってくる。
見る時刻によっても変化はある。夜ならば真っ暗闇だが、夜らしいじゃないか。
早朝ならば早朝の景色がある。昼ならば、変わりゆく影を楽しめる。
何の変哲もないと決め付けるべきじゃない。楽しもうとしない限り、つまらないままだ。
不変なものなんて一つもない。変わりゆくからこそ楽しいもの。楽しめなくなれば、人生はつまらないまま。
つまらない人生よりは、楽しいものが良いだろう。楽しみかたは人それぞれだとしても。尊重し合えばいい。
楽しみの押し付けは、一方的なまでの押し付けに過ぎず、自己満足でしかないのだからーー。
涼しい風が吹いている。風の中に手を入れて掴もうとする。だけど、スルリと抜けてしまう。当然のことだろう。
風は空気で形の無いものなのだから。どうしたって、掴むことなんかできない。
吹き抜けていく感覚を味わえるとしても、風を身体で受けているとしても、風そのものを手に入れることはできない。
できるとしたら、それはファンタジーであり、幻想の中のもの。想像することしかできない。
風はどこから生まれて、どこを巡り、どこに去って行くのか。どこで終わりを迎えて、どこで新たに生まれてくるのか。
それは誰にも分からない。もしかしたら、風そのものも分かっていないのかもしれない。
秋の涼しい風がどんな変化を迎えていくのか。それは誰にも分かることでは無いのだからーー。
子供の頃、よく遊んだ公園にはジャングルジムがあった。今でもあの公園にはジャングルジムがあるのだろうか。
Googleearthで調べてみる。すると、ジャングルジムが撤去されていて、ブランコとすべり台と鉄棒だけになってしまっていた。
昔は、グローブジャングルなどの遊具があったのに。子供たちの安全面のためと言われれば仕方ないのかもしれない。
昔有ったのが、何らかの理由で無くなっていく。寂しさを感じるが時代の流れなのかもしれない。次世代を担うであろう子供たちを怪我から守るためにも。
そうだとしても、やはり寂しさを感じてしまうのは、私が大人になったからだろうか。
追憶の中で遊んだ記憶を思い出すしか、今は方法が無いのかもしれない。
童心に帰りたいのに帰りづらくなっているのは、どう考えても寂しいものなのだからーー。
「どこにいるの」
あるマンションでのことだ。ロビーにいると謎の女性の声が聞こえるらしい。
「どこにいるの」
その女性は誰かを探しているようだ。しかし、見つからないらしい。
「どこにいるの」
その女性は鏡越しに見えるらしい。まるで亡霊のように。
「どこにいるの」
彼女は何度も繰り返し声を響かせる。
「どこにいるの」
返事を求める声を、繰り返し繰り返し響かせる。
「どこにいるの」
されど、彼女が求める返事は来ない。
「どこにいるの」
彼女がいる世界は鏡の世界。それは死者だけが入り込む世界。
「どこにいるの」
彼女が求めているのは、生きている我が子。だが、彼女がいるマンションにはいない。
「どこにいるの」
別の場所で生きているから。彼女の呼び掛けに応えることはできない。
「どこにいるの」
彼女は今日もマンションの中を、鏡越しに彷徨い続ける。
「どこにいるの」
叶わぬ望みを抱き続けながらーー。
『秋恋の時』
秋の季節が恋しくなる。何故なのだろう。食に対してなのか。読書に対してなのか。それとも、芸術に対してなのか。
私には分からない。ただ、秋になると無性に恋しくなるのだ。
もしかしたら、忘れてしまっているのかも知れないが、初恋の時が秋だったのかもしれない。
そして、初恋とは実ることは稀だ。実らない恋のことを何時までも引き摺っているからこそ、恋しくなっているのかもしれない。
あるいは、好きだった人と別れることになったのが秋で、そのことを考えると恋しくなるのかもしれない。
どちらにしても、またはそれ以外だとしても、私にとって秋という季節は恋しいものだ。
もしかすると、ここ数年の異常気象によって、僅かだった秋の面影が残暑によって追いやられてしまったこと。それ故に短くなってしまった。秋を感じづらくなってしまったことを恋しく思っていたのかもしれない。真相は分からないがね。
恋しくなる理由をつらつらと挙げていったがどれも納得できるようで納得し難いものがある。過ぎ去ってしまっているものに対する恋慕なのか。それすらも私には分からない。
ただ分かるとするならば、秋の時が過ぎ終えれば冬の時が来るということ。どんな寒さになるのかは、今のところ知る由もないのだからーー。