雑多な声が行き交う
そんな教室が苦手で
誰よりも早く学校に行く
誰もいない教室の黒板
そこには昨日の落書きが
まだ消されずに残っている
わたしとは何一つ関係ない
文字列のそれ…
ちょっとした疎外感
静かすぎる朝の教室
ここが私の居場所
ここなら息ができる
ここなら心が休まる
だけど あのドアが開けば
また現実が始まる
騒がしくなる
賑やかな教室の中で
私は空気のように消えていく
心の中の風景は
マーマレード
甘くて ほろ苦い
昔に感じたそれ
記憶の彼方から
湧き上がる
懐かしさと
ほんの少しの切なさ
マーマレードの色は
人生をあらわすみたい
喜びのオレンジ色
悲しみのくすんだ橙色
スプーンですくえば
思い出が溶けて
舌の上で
広がるあのころの味
あの日もこんな朝だった
温かい紅茶に
マーマレードを添えた
こんな朝だった
ばっちゃの 昔話ではじまる
あの空は 誰のものでもないこと
ばっちゃが 指差す
雨上がりの砂利の匂いと
夕焼けが混ざる 日常の不思議
ぼくは 今ようやく理解した
ばっちゃが 遺してくれたもの
それは 言葉だけじゃなかった
空と心の「つながり」
その名を持つと知った瞬間
視界に映る世界は
いつもと違って見えたんだ
また 遠い時間の向こうで会えたら
今度は ぼくから話そう
季節の変わり目にある 不思議の数々
どうか あちらで元気でいてください
ぼくの大切な家族 ばっちゃへ
遠くの空で笑う ばっちゃへ
君が見てきた景色を知るため
私はこの道を選んだ
夏の匂い 空のあお色
触れられなくても 感じるものがある
風に乗せた思い出たちが
まだ どこかで響いているなら
私もまた新しい 明日を生きられるだろう
君が見た景色をそえて
蝉にすら舌打ちする
心の狭い十七歳の真夏
地球が終わりそうだと
暑さに悲鳴をあげる午後三時
白線の上だけ歩くと決めて
足元から 世界は広がった
なのに見える先は まるで陽炎
揺れて溶けて 掴めない現実
誰かの笑い声が風に乗り
夏はいつも 誰かを置いていく
それが記憶
わたしの真夏の記憶