別れ際に
影をひとつ ぽつりとおとす
別れ際の
影をひとつ あなたはおって
その意味を 知るとき
荒れくるう 海にも似た
わたしの心に ふれるのでしょう
金木犀の香をつれて
過去がその影をちらつかせる
金木犀の香をまぜて
苦い想いがよみがえる
秋風よ わたくしのために吹け
ふかい悲しみを消すように
ーーーされど
その経験こそが
今のわたくしを
いちから作り上げたのだ
ーーーだから
金木犀の香をつれた 苦さよ
金木犀の香をまぜた幼き過去よ
そろそろ さようなら
窓をあけ
首だけ外にだしました
外は黒く
小雨もふっています
首をひっこめ
黒の断片に手をのばし
小雨をつかもうとしました
その冷たさを手のひらに取り
ぼくはひとこともしゃべれずに
景色をさがすのです
黒が問いかけてきます
コレガ ノゾミダッタンダロ?
それはちがいます
コレガ セカイノスベテダロ?
そんなのはいやです
ジャア ドウシタイノサ?
それならば 多くをのぞみはしないので
だからどうかお願いします
もうすこし ぼくの景色に色をください
目で見える言葉をもとめて
その形をさぐるけど
解釈が無限にひろがるせいで
かえって形がわからない
誰かがさけぶ
『言葉の源泉は無意識のうみにこそあり!』
誰かがこたえる
『そのうみにあまたの我あり!』
それぞれのうみに
あまたの自分を見つけ
それぞれの言葉をかりて
あまたの物語をいきる
その物語がおわるとき
うみへと溶けて
言葉は形をくずし還ってゆくのだろう
それはこの身にもおこり
わたしの言葉を
わたしの物語を
ほかの誰かがつかむ前に
それらは形をなくすのだ
銀杏の木と同化したジャングルジム
太い幹にのまれた鉄は錆色
てっぺんに腰かけて
ぷらぷら揺れる足を見つめる
夕方のチャイムは少し前に鳴った
なのに僕はここから降りられない
まだ帰れない
もう帰りたい
揺れる心と足は翳りをみせて
いっそのこと銀杏の木よ
僕ごとのみ込んでしまえ
そうすれば悩みごと消えてしまえるから