バン! とリビングから凄い音がしたから慌てて向かう。
私の目に飛び込んできたのは顔が白と黄色にまみれた弟の姿。
弟自身もびっくりしているのか固まったままこちらを見ようとしない。
「……何があったの?」
私の問いに弟は呆然と口を開く。
「……たまご、爆発した……」
「卵?」
もう少し詳しく訊くと、小腹の空いた弟はゆで卵を作ろうと思ったけどお湯を沸かすのがめんどくさく感じ、レンチン卵を作ったらしい。
「で、食べた瞬間に爆発したと……」
「姉ちゃん……これ、どうしよう……」
服と床と壁に飛び散った卵の残骸を涙目で見つめる弟。
いやまあ同情はするけど、どうしようと言われても私が提示できる選択は一つ。
「……自分でがんばれ。お母さんには言っておくから」
「……手伝ってくれないの?」
「……服の洗濯くらいならいいよ」
「うん。ありがとう……」
弟はそれから一人で頑張って床や壁をピカピカにしていた。
お母さんからはちょっと怒られたけど、本人が猛烈に反省してるからお咎めはなかったっぽい。
……生卵はレンチン、ダメ絶対。
そう思った出来事だった。
§
生卵は絶対に電子レンジに入れてはいけません。
企業などのレシピを試す時にはレシピ通りに作る&何があっても自己責任の心構えをしてから作りましょう。
さもなければ爆発します。
子どもの頃は枯葉の山に突っ込んで服が汚れることも手が汚れることも気にしなかった。
……いつからだろう。服や手が汚れるのが嫌になったのは。
枯葉の山にときめかなくなったのもいつからだろう?
その時期を境に大人への階段を登ったということなのだと思うが、今振り返ると多少の物悲しさを覚える。
あの時期は今後もう二度とやってこないことをわかっているから。
「今日は夜ふかしするっ!」
夜ご飯を食べた後、堂々と妹が宣言した。
妹はまだ小学二年生。夜の十時には寝てしまう。
なのになんで急にそんなことを言い出したんだろう?
「どうして?」
お母さんが不思議そうな顔で言うと、妹は胸を張ってこう答えた。
「今日にさよなら言うの!」
「……えーっと?」
「夜遅くになったら明日になるんでしょ?
だから今日さよならってするの!」
……わかるようなわからないような。妹のその主張は微妙な納得を私たちにもたらした。
明日も学校があるし、寝不足は良くないとは思うけど、そんなことを言って聞かせても妹は納得できる年齢でも性格でもない。
なのでとりあえずは好きにさせてみよう。夜ふかししたらどうなるのか体験させてみようとしたけど……
「……すぴー……すぴー……」
案の定というか何というか、十時半には寝てしまっていた。むしろ三十分もよく起きていられたと思う。
まあでも好奇心は生活リズムと睡眠欲には勝てなかったらしい。
さて。明日朝起きたら妹は怒るかな。
そして明日も夜ふかしチャレンジをして寝落ちしてしまうのかな。
……いつか成功するのかな。
ちょっとだけ気になるけど、私も今日はもう寝てしまおう。
『お姉ちゃんだけズルい!』なんて朝から言われないように。
京都に行きたい……
私のお気に入り(My favorite things)を聴きながら京都を散歩したい……
でも私は知っている。
冬の京都はとても寒いことを……
だからと言って春の京都や秋の京都は人を見に行くようなもので、とてもじゃないけど観光やぶらぶら散歩なんかできない。
夏の京都は暑すぎる。溶けてしまいそうなほどだ。
ではいつ行けばいいのだろう……
こういうのは思い立ったら吉日みたいな感じだとは思うけど、気持ちが入らない。
……まあいいや。またいつか行こう。今年中に。
お前は誰よりも負けず嫌いで、誰よりも向上心があって、誰よりも勇敢だった。
戦う力は村一番で、お前の右に出る者は誰もいなかったもんな。
俺はそんなお前と友達だったこと、実は誇りに思ってるんだぜ。
二人でよく村の英雄になろうぜって話してたっけな。
まったく……先に英雄になりやがって。
魔物相手に一歩も引かず、村を守りきったのは本当にすげえよ。
あん時のお前の背中、すげえデカく見えたぜ。
……けどよ、俺は自分の命を大切にしてほしかったんだ。
最悪、村が滅んでも人がいればまた復興出来る。だが命はそうはいかねえ。
……時々俺さ、考えるんだ。俺にもっと術者の腕があれば……高位の回復魔法が使えたら……もしかしたらお前を助けられたんじゃないかって。
だから、俺……実は結構頑張ってるんだぜ?
もう後悔したくねえし、お前みたいなやつをもう出したくねえしな。
……さて。もう行くよ。
また来年会おうぜ。今度は良い酒を用意しておくからよ。