もしも過去へと行けるなら、私なら何をするだろうか。
過去の黒歴史をなかったことにするか、今はもう出来ないあのFlashゲームをもう一度プレイするか……
いやいや、当時話題になったあの作品を映画館で見るというのもアリだな。
今では入手困難なあの本やあのグッズを買うということもできるな。
あの電車のラストランも見られたりするのかな?
でも私が考えているより遥か過去……例えば戦国時代や縄文時代、下手をすれば白亜紀に行くとなれば……私は御免蒙りたい。
サバイバル知識も戦う力もほとんどない、現代機器に慣れきっている人間なんて一日生き延びられるかどうかだろうから。
「真の愛って何だと思う?」
一人でチョコパフェを楽しんでいると不意に後ろの席から女性の声が聞こえた。
そのすぐあと「真の愛?」という疑問に満ちた声が聞こえた。この声も女性だったから二人でティータイムないしおやつタイムなんだろうな。たぶん。
「そ。True Love」
「なんで英語……」
「いいじゃん。で、あんたはどう思う?
あたしは固い絆だと思ってるけど」
その言葉に私はなるほどと心の中で呟く。
真の愛という字面は某プリンセスの作品をなんとなく彷彿とさせるけど……あれも突き詰めれば絆な気がする。
じゃあ絆は愛と言い換えられるのかな。それはそれでまた違うような気もするけど。
「うーん……私は真心とか信じる心かなあって思う。
もちろん愛情があることが前提条件だけど。
愛がなければできないことはたくさんあるけど、それはそれとして相手を信じる心がないと真の愛と呼べるようなものにならないんじゃないかなあ……って思うよ」
……中々深い。というか今更だけどこの会話は盗み聞きしていいようなものじゃない気がする……
だけど今更知らないフリもできないなぁ……
「ふーん……なるほどね。
んじゃ浮気した奴が言いがちな真の愛は何だと思う?」
「罪悪感と背徳感とアドレナリンでハイになって我を失って気持ちよくなりたいだけだからそんなものは存在しない!」
ものすごい早口で怒涛にまくし立ててる……
もしかして浮気された過去があるのかな……?
いやいや、邪推は良くないよね……うん。
「だよねー。いやはやバッサリ言ってくれてありがとね。お礼に奢るわ」
「えっ!? ちょ、待って!」
イスのガタタッと音と小走りの音がして、そーっと後ろ……というかレジの方を見てみると黒髪ストレートロングの女の子と茶色のボブカットの女の子がやいのやいの話し合っていた。
……仲いいんだなあ。名前も全然知らない人たちだけど、あの二人の友情が真の愛のようにずっと続けばいいな。
ちょっと溶けたチョコパフェを食べながら、私は心からそう思った。
旅をしているとたくさんの人と出会い、同じ数だけの別れがある。
そして別れたら基本、それっきり。再び会えるということはほとんどない。
だからこそまた会えた時の感動は何にも代え難いものだと思っている。
時には再会の約束をして中々会えないような奴もいるが、だからといって怒ったりはしない。
同じ旅人であるならば何があってもおかしくない。
たとえそれが最高のことでも最悪なことでも受け入れるしかない。
だからそう、またいつか会えたらそれでいい。
それくらい気楽に考えなきゃ心が衰弱してしまうのさ。
「ごっめーん!! 待った!? 待ったよね!?」
汗だくの友人が走ってきて開口一番私にそう言った。
二時間近く待たされた身としてはそんな謝罪じゃ許さないつもりだったけど、それとは別に妙に友達の身なりが乱れてる気がした。
髪の毛はぐしゃぐしゃで服にも汗がびっしょり。しかもどことなく汚れているような……
本気で走ったにしてもここまでなるだろうか?
気になって聞いてみると友達はちょっと言いにくそうに頬を掻いた。
「あー……そのー……、星を追いかけてたっていうか……」
その言葉に私はついに友達がおかしくなってしまったのかと衝撃を受けた。
星を追いかけてた? こんな真っ昼間に?
動揺が顔に出てたのか友達があわあわしながら私に打ち明ける。
「実はさー……すごい大捕物があって、なんか流れで私もそれに参加しちゃったんだよね……
それで夢中になって犯人逮捕まで見届けてたらこうして遅れちゃったわけ……」
さっきの星はホシというわけか……と納得はしたけど、それはそれなので、友達には罰として今日の映画代を奢ってもらうことにした。
友達はわかりやすく肩を落としてたけど最終的には仕方ないかぁ……と受け入れていた。
そして後日、友達は警察から感謝状を贈られたらしい。
詳しく聞こうとしても必ずはぐらかされるけど……いったいどんな貢献をしたんだろう?
それだけがちょっと、気になる。
“何のために生まれて 何をして生きるのか”
誰しも一度は目や耳にしたことある言葉だろう。
子ども向けのとあるアンパンのヒーローの歌い出しなのだから。
子ども向けには似つかない深いこの歌詞は年を重ねれば重ねるほど味わい深くなってくる。
そして思う。この歌は自己肯定感を高め、かつ、励ましてくれる素晴らしい歌だな……と。
子どもの頃、歌詞をなぞるだけでその言葉の意味をそこまで理解していなかった。
アンパンのヒーローは子どもだけのヒーローだとあの頃は信じていた。
だが彼は子どもだけでなく全ての人にとってのヒーローでもあるのだ。彼も最初は大人向けの作品であったのだから。
そして続きの歌詞が示す通り、生きるとは嬉しいものである。
だから私は何事も楽しんで生きる。
それが今を生きることへの敬意になると、私は信じている。