羅針盤はいつだって同じ方向を向く。
それを道しるべにして多くの人が航海をしたり冒険をしたり、ロマンや名誉や利益を追い求めてきた。
たくさんの人を導いてきたその羅針盤は私にどんな景色を見せてくれるのだろう?
そんなことを思っても結局は決意を持って自分の足で前に進める人にしかその先の景色は見られないのだろうけど。
人生とは旅だ。といろんな人が言っている。
確かにそうかもしれない。戻ることは許されない一方通行の旅路。
お迎えが来る前にこれまでの人生を振り返った時、幸せだったと、良い旅だったと私は笑って言えるのだろうか?
そんな未来のわからないことを考えてもしょうのないことだが、そうなれば嬉しい。
そう思いを馳せて明日に向かって歩く、でもその一番先に黄泉という新たな旅路が待っている……
のかもしれない。
君は元気があって愛くるしくて、その上困っている人のことを放っておけないお人好しでもあったね。
君のその笑顔や心根に魅了された人々が君を崇拝しだしたのは時間の問題だった。
……まさか、一国の王や王妃までもがそうなるとは思わなかったけど。
それまで信仰していたはずの神をあっさり見限り、君を唯一神だと言い出した。
民衆は大いに盛り上がった。なんたって神がすぐそこに実在したと太鼓判を押されたようなものだからね。
君はこの状況を戸惑いながらも受け入れた。……受け入れてしまった。
……あそこで否定していたら、何かはきっと変わったかな。
それとも今みたいに過激な信者が『あなたはそんなこと言わない』と君に酷いことをしたかな。
……君を受け入れない人がどうなっているのか、それは君の耳にも入っているだろう?
だからこそ、こうして暴動が起きてしまった。
……そうだね。信者たちはともかく、他国から見たら僕は英雄になるのだろう。悪神を討った者として。
君自身は悪いことしてないのにね。いや、何もしていないことが既に悪いことだったのかな?
答えはもう、誰にもわからないけどさ。
……はは、無駄話を続けるならさっさと斬れ、か……
そういうところ、思い切りがいいよね。命運が尽きる局面にいるっていうのにさ……
ああ……じゃあ……最後に言わせてよ。
僕の好きなただひとりの君へ。……愛してたよ。
……さよなら……っ!
小さな小さな箱庭の庭を作り上げて、手のひらに乗せて眺めてみる。
枯山水に苔むした石灯籠、松の木とししおどしも配置したザ・和風の庭。
思いつくまま、思いのまま、私の好きを詰め込んだその庭は一つの空間だ。
手のひらの宇宙とまではいかないけど、それに近くはなったんじゃないかな。
さすがにその感想は自画自賛かな。手前味噌かな。
……まあでも私が創造したのだからそれくらい思ってもいいよね。
しっかり持ってたはずなのに……
風のせいで買い物メモがどっか飛んでっちゃった……
絵に描いたような風のいたずらだ……
こういう時のためにやっぱスマホにメモっとけば良かったのかなあ……
でも、そういうのは書いておきたいし、書いてあるのを見たいんだよねえ……我ながらアナログ人間だとは思うけど。
しかし、こういう自分の不注意を何かのせいにしたがるのも人間あるあるなんだろうかねえ。
とある魔法少女ものに出てきた白いかわいい宇宙生物も似たようなこと言ってたような気がするし。
……はあ。嘆いていても仕方ないし、記憶を頼りに買い物を遂行しようかね。
お味噌とお肉とお野菜にドーナツ、それから……何だっけ。
忘れちゃった。