綺麗に晴れ渡る空。見事な冬晴れだ。
空気は冷たいのに陽だまりにいるとなんだか暖かく思える。
こんな日にはちょっとだけ遠出してみようかな。
そういえばこの前、新しいパン屋さんのチラシが入ってたっけ。
せっかくだから行ってみよう。
どんなパンがあるのかな。美味しいパンだといいな。
近くにいて当たり前だと思っていると、ふとした拍子に全てを失ってしまうこともある。
幸せとはそういうもの。
こうして暖かい部屋でスマホを触って自分の世界を表現することだって、明日のご飯のために買い物の予定を立てることだって、本当に幸せなことなんだ。
伴侶がいなくても、恋人がいなくても、一人ぼっちでも私は充分に幸せ。
それ以上は望まない。失った時が怖いから。
射し込む陽の光で目が覚める。
朝か……と思っていると、ハッと昨日の決意を思い出した。
それは、初日の出を片割れの弟と一緒に見ること。
私たちは旅人だ。旅立って一年にも満たない新人だけど。
町にある小高い丘から初日の出の瞬間を見ることができたら今年は良いことがあるだろう、となんとなーく験を担いでせっかく早寝したのに結局間に合わなかったなんて!
弟も弟で、隣でぐーすか寝てて起きる気配はない。
せっかくの大みそかの日に夜ふかしをしなかったのに……
怒りと悲しみを込めてカーテンを勢いよく開ける。
まだ眠い頭や目に暴力的なまでの光が一気に射し込み、私は床に倒れ込む。
朝の光を浴びただけなのにHPの半分くらい持っていかれた気がする……
その時、大あくびと布が擦れる音が聞こえた。どうやら弟も起きたらしい。
「あけましておめでとう……。
なんか……死にかけのバンパイアみたいだけど、新年早々何やってるの……?」
「……うるさい」
弟は私にそっと近寄り、頭に何かをバサリと掛けた。
「これで眩しくないはずだよ。ほら、目を開けてみて」
言われた通りそーっと目を開けると、光が良い感じに遮断されている。どうやら掛けられたのは弟のコートのようだ。
窓の外を見上げて弟は呟く。
「初日の出、だね」
「……あの小高い丘から見たかったのに……」
「それはまあ、来年頑張ろうか。僕も頑張って起きるようにするからさ」
「……そうね」
二人で並んで宿屋の窓から太陽を見上げる。
今年はこうだったけど、来年は私の願い通りになればいいな。
そんな新年の始まりだった。
半紙と墨汁と筆を前にして、私はうーんと考える。
今年の抱負は何にしよう。
いろいろ思いついて一つに決められないんだよね。
健康も大事だし、遊びも大事。勉強は……別にいいか。
隣にいる妹をちらっと見ると、子どもらしい拙くも大きな字で『いっぱいあそぶ!』と書いてご満悦そうにしていた。
まだ小学生低学年だから宿題だの勉強だの考えなくてもいいのがちょっとうらやましい。
……私も妹に倣って遊びを主軸にしてみようかな。
妹と完全に同じなのはつまらないからちょっと変えて……
『好きなことに全力で取り組む』
よし、これでいいや。
新年になった。
僕も彼女もまた一つ年を重ねる。
今年はどんな年になるだろう。どんな年にしよう?
いろいろ考えることはあるけれど、とりあえずはこれだね。
今年も彼女と楽しい思い出がたくさん作れる一年になりますように。