とってもいいマットレスに手触りのいい毛布。
そこにふかふかの掛け布団と低反発の枕をセット。
そうしたら私専用安眠すやすやベッドの完成!
うふふふふ……マットレスが届いたら絶対これで寝てやるって前々から決めてたのよね……!
寝るのが楽しみすぎて今日はしっかり運動したから、きっと極上の寝心地になるはず……!
さて、電気を消してベッドに入って……っと。
うふふ……すごく体が支えられてる感じ。それに温かい気がする……
ああ……眠りに落ちていく時の……いい感じの、ふわふわ感……
…………
けたたましい目覚ましの音に叩き起こされ、もう少しこの幸福を味わっていたかったなあとしみじみ思う。
いや、待てよ……今日は日曜日じゃん!
いえーい、至福の二度寝っ!
でもあれ? 何で目覚ましかけてたんだっけ?
まあいいや、おやすみっ!
……眠りに落ちていった私は忘れていた。
昼過ぎに来る姪っ子のためにケーキを焼いておくという約束を……
ふとカレンダーを見て思う。
今日はいい夫婦の日か。
うちの両親はお見合いで結婚したのだが、そこまでラブラブでもなく、だからといって冷めてもない。
互いに愛しているとは思うのだが、なんとなくドライというか……よくわからない。
でもとても仲は良い。ケンカもしない。罵りあったり殴ったりしない。互いの趣味を否定しない。
それって本当はかなりすごいことなのではないだろうか。
私の理想の夫婦はたぶん、両親なのかもしれない。
たとえ世間体の為に結婚したとしても、互いを尊重しあっている。
私はそんな夫婦に憧れている。
私は迷っている。
プリンを買うかゼリーを買うか杏仁豆腐を買うか……
今、柔らか系甘い物の気分なのだけど、いざ買うとなるとどれも美味しそうでとても困る。
全部買えばいいじゃないという悪魔の囁きが聞こえてきそうだけど、お財布事情から全部は無理だ。
お小遣いがもうちょっとあればなあと思うけど、無い物ねだりしてもしょうがない。
値段はプリンが一番安いけど量もそれなり。ゼリーが一番高くてなおかつたっぷり。杏仁豆腐は中間だ。
ある意味究極の三択が目の前にある……
私はどうすればいいの? 何を買えばいいの? どれが正解なの?
うーんうーんと唸りながら数分考えた私が手にしたのは……プリンでした。
安さには勝てませんでした……
いつか大人になったら三つとも買ってやるんだから!
その昔、ドラゴンは有り余る力を使って国をいくつも滅ぼし、村を焼き、数多の命を奪った。
長年続いた復讐と報復にいつしか疲れ果てたドラゴンは、人がいない火山を居住地と決め眠りについた。
それから数百年経ち、人々がドラゴンのことを伝説だと感じていた頃。一人の少女が火山へとやってきた。
少女は七つの頃からひとりぼっちだった。
自分に近づいた命は全て死んでしまう呪いにかけられてしまったからだ。
人も草木も動物も関係なく死んでいく様を見て、少女は生きていることが嫌になり、誰もいない火山へとやってきた。
そしてドラゴンと少女は邂逅し、互いに大きく驚いた。
ドラゴンはこんなところに人間の子供がいることに。
少女は自分に近づいても死なないドラゴンに。
やがて彼らは意気投合し、共に暮らすようになった。
しかし人間とドラゴン。一緒に過ごした時間は儚いものだった。
ドラゴンは毎年、己が朽ち果てるまで墓に少女が好きだった花を供えていた。
生きる時間の長さが違っても、種族が違っても、確かに彼らが過ごした時間は間違いなく宝物だった。
真っ暗な部屋にキャンドルの灯りがつく。
辺りをオレンジ色に染めて、炎が揺らめく。
そこで私たちは手拍子しながら歌をうたう。
キャンドルが刺さっているのは白いクリームに彩られたホールケーキ。もちろんメッセージが書かれたチョコプレートもある。
そう、今日は誕生日。
愛しい我が子の五歳の誕生日。
やがて歌が終わり、我が子がフーッと火を吹き消す。
火が消えた後の独特なにおいと共に部屋が暗くなるがすぐに電気がつく。
一仕事終えた我が子は得意げに笑っていて、とっても嬉しいことが丸わかりだ。
私はキャンドルを引き抜いてケーキを切り分ける。
もちろん一番大きいのとチョコプレートは我が子に。
ケーキにかぶりついて口まわりをクリームだらけにしている我が子に夫が笑いながらウェットティッシュで拭き取る。
今日は幸せな日。
来年も同じような幸せが来るといいな。