真っ暗な部屋にキャンドルの灯りがつく。
辺りをオレンジ色に染めて、炎が揺らめく。
そこで私たちは手拍子しながら歌をうたう。
キャンドルが刺さっているのは白いクリームに彩られたホールケーキ。もちろんメッセージが書かれたチョコプレートもある。
そう、今日は誕生日。
愛しい我が子の五歳の誕生日。
やがて歌が終わり、我が子がフーッと火を吹き消す。
火が消えた後の独特なにおいと共に部屋が暗くなるがすぐに電気がつく。
一仕事終えた我が子は得意げに笑っていて、とっても嬉しいことが丸わかりだ。
私はキャンドルを引き抜いてケーキを切り分ける。
もちろん一番大きいのとチョコプレートは我が子に。
ケーキにかぶりついて口まわりをクリームだらけにしている我が子に夫が笑いながらウェットティッシュで拭き取る。
今日は幸せな日。
来年も同じような幸せが来るといいな。
明日、俺はこの町を出る。
理由は大学が県外だからというのもあるが、一番の理由はあいつらだ。
学校で知らぬ者はいないほどのラブラブカップルだった。
彼氏の方も彼女を愛していたが、彼女の方がもっとゾッコンだった。それこそ、あなたがいないと生きていけないみたいな。
……それが現実になっちまうなんてな。
体育祭が終わってすぐだった。
彼氏が病気で死んじまった。
そこから彼女は学校に来なくなった。
彼女の友達に頼まれ、一緒に家までお見舞いに行った。
彼女は部屋にいた。でも、そこにはいなかった。
彼女は彼女の世界の住人になっていた。
……あれ以来、俺の心に大きなトゲが刺さったままで取れることはたぶんもうない。
彼氏と彼女にはたくさんの想い出があったはずだ。
それは容易に想像できる。
この町の至る所にあいつらのたくさんの想い出の欠片が散りばめられていると思うと、胸が苦しくなるようなどうしようもない気持ちに襲われる。
だから俺はこの町を出る。親には悪いがもう戻ることはないだろう。
あいつらのことを一生忘れることはできないから。
冬になったら美味しいものたくさん!
お鍋にコーンスープ、ホットココアにホットミルク……
あ、シュトーレンとかウイスキーボンボンも美味しいよねー。
でも何より美味しいのは……寒空の下で食べるコンビニ肉まん!
おてて冷たい中ホカホカの肉まんを持って、フーフーしながら食べる。
口の中も冷たいからヤケドしそうになるけど、ハフハフ言いながら食べるのがまた美味しいのよね〜。
……あー、思い出したら食べたくなってきちゃった。
早く冬にならないかなぁ。
『大丈夫。私とあなたはまたくっつくから。
今はこうしてはなればなれになってるけど、私はまたあなたの元に行くわ。
だから心配しないで。
そんな保障はどこにもないなんて……随分悲観的ね。
ほら思い出してみて。私がここに来てから一日以上あなたとくっつかなかったことなんてなかったでしょ?
もう……わかってるけど早く来てなんて、あなたってば心配性なんだから。
そういうところも可愛いんだけど、でもだーめ。今はまだその時じゃないの。
あと数分待ってね。愛しい愛しいあ・な・た!』
……っていうキッチンタイマーと冷蔵庫の恋愛もの考えたけどどう? 薄い本のネタになるかな!?
……え? 上級者すぎて上手く描けそうにない?
いやいやいや、全然上級者じゃないよ!
ほら、はなればなれになっちゃって、でも自分では動けないけど互いを愛し合ってる男女のお話だから普通の話じゃん!
……ってえ? なんで後ずさるの?
え、どこ行くの!? ちょ待ってよー! ねえってばー!
こうして見る分にはかわいいんだけどね……
そう思いながら私は友達のスマホに映る子猫を眺めていた。
友達はかなりの猫好きで三匹も飼っている。今見せてもらっている子猫は新しくお迎えした子だそうだ。
お世話とかエサとか大変そうだけど、それすらも楽しいみたいで毎日充実しているとSNSに呟いていた。
私は子供の頃猫に引っ掻かれたことがあって、それ以来猫が怖くなってしまった。
友達もそれをわかっているから私を家に呼んだりしないし、猫を連れてきたりしない。
写真を見せるのも子猫だけだ。
申し訳ないと思うと同時にマジありがたいとも思う。
成猫はやっぱりまだ怖いから。
……でも、申し訳ないけど猫の良し悪しなんてあんまりわかんないなあ……
丸まって寝ている子猫がいかにかわいいのか力説している友達に相槌を打ちながら、その寝姿がどう見ても毛玉というのは言ってはいけないことなのだろうか。
と考えていた。