雨が降っている。
オノマトペで表すと、しとしと。
そんな感じの柔らかい雨。
空は灰色。明るい灰色。
もうすぐ雲の切れ目が見えるかな。太陽出るかな。
そうしたら虹、見えるかな。
たまには童心に返って空を見上げてわくわくするのもいいよね。
暗闇にいた私にとって、あなたは一筋の光みたいなものでした。
あなたはいつも私を気にかけてくれて、時にはそばで笑っていましたね。
私はそんなあなたが大好きでした。
しかしあなたはもういない。
人と違う私をよく思わない人たちが、私が楽しくしているのが気に入らないと、そんな自分勝手な理由であなたに酷いことをしましたね。
あなたは今も生きている。でも、心は、精神は……
きっと彼らにとってこれは私への見せしめなんでしょうね。
でも、私にとっては最大のきっかけになり得ました。
……もし、あなたが元気でいたならば私のしようとしていることを、きっと止めるのでしょうね。
あなたは優しい人でしたから。
復讐は何も生まない。自分はそんなこと望んでないと言ったのでしょうね。
それでも、私の気がすまないのです。
……私はもうここには帰りません。
さようなら、私の愛しい人。
あなたのこと、この身が滅びてもずっと忘れません。
帰り道の途中、どこかのお家から豚汁の香りがふわりと漂ってきた。
とても美味しそうなその香りはなんとなく哀愁を誘ってくる。
……おばあちゃんがよく作ってくれたなあ。
一緒に暮らしているパワフルで元気な祖母。でもさすがに年には勝てなかった。
足腰も弱ってるし手の震えだってすごい。もう料理するのは不可能だ。
一応、レシピはあるにはあるのだけど、材料を切って鍋に入れてグツグツ煮込んで良い感じに味を整える。というもの。
……豪快というか過去の経験からくる適当な目分量のレシピだよなあ。というかこれはレシピなのか……?
作り方を訊いた時に、これは作れないと直感したから祖母の豚汁はたぶんもう、食べられない。
美味しかったなあ。よくどんぶりに入れて食べたっけなあ。どんなに嫌なことがあってもこれ食べたら吹き飛んだんだっけ……。
……そんな懐かしい思い出が止まらなくなって思わずコンビニに駆け込む。買うのはもちろん豚汁。
おばあちゃんの豚汁には全然敵わない。だけど豚汁欲を満たすにはちょうどいい。……本当はあの味が良いんだけど。
……今度、あのレシピと向き合ってチャレンジしてみようかな。
それで出来たものがあの豚汁じゃなくても、僕の心は満たされるはずだ。
鏡の中のあたしはいつもステキだけど、今日はもっとステキでかわいい!
お気に入りのワンピと素敵な髪飾り。お母さんから借りたちょっと大人っぽいネックレスも着けちゃえば、お友達みーんなあたしに釘付けよ!
お母さんは言うの。鏡の中のあなたはいつだって自信満々ね、って。
そりゃそうよ! あたしがそうだもの!
鏡の中のあたしがしょぼくれてる姿なんて見たくもないわ!
しょぼくれてる姿を見せるのはお父さんとお母さんとお姉ちゃんだけで充分よ!
……うーん、もう少しかわいく出来そうだけどこれ以上いじくったらせっかくの髪型が崩れちゃいそう。
そうなったら直すのに時間がかかりそうだし……それに主役が遅れちゃ格好がつかないわ。
なんたって今日はあたしの誕生日!
幼稚園のお友達が家に遊びに来てくれるし、ケーキもあるし、お菓子もジュースもいっぱいあるの!
でもまずはお出迎えの練習ね。
ええっと確か、裾を摘んで、ペコっとして、ようこそいらっしゃいました……だったかしら?
首を傾げていると鏡の中のあたしは自信満々に頷いてウインクした。良かった、これでいいのね。
あっ、チャイムが鳴ったわ! お出迎えしなきゃ!
良い眠りにつく前にお気に入りの香水を枕にかけて、いい香りで肺を満たすの。
夢にその香りが出てくるように。
嫌なことがあった日はいつもこうしているの。
一日の終わりなんだからうじうじ悩んでもしょうがないし、明日にまで引きずりたくないもの。
ほら今日はふわふわのうさちゃんとも一緒に寝ちゃうもんね。
肌触りのいいパジャマに、温かく包みこんでくれる掛け布団。ここには私の好きが満ちている!
るんるん気分でベッドに入ってふと気づく。まだランプを消してないわ。
友達や知り合いは私がランプを愛用していると聞くとなんかちょっとバカにしたように笑うけど、いいじゃない、ランプ。
LEDなんかよりも、蛍光灯なんかよりも、火のあたたかみが好きなんだから。
それにあのランプ屋さんも言ってたけど、ベッドに入ったらどっちみち明かりは消すじゃない。
だからフッと息を吹きかけて火を消すの。この時の香りもたまらないわね。
それじゃ、おやすみなさい。
良い夢が見られますように。