ォㇺㇾッ

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1/30/2024, 9:59:45 AM

I love...

生まれた時は、白で無垢だったはずだ。
母親の呼び声に応えようと、形を得たはずだ。
生まれ落ちた彼女は、今、戦火の中、血だらけの死体の中から産声をあげた。
「かわいそうに」
何処からともなく現れた男は生きんとする彼女の姿に、微笑みかけるが、そのまま踵を返してしまった。
だが一層激しく泣く声に、男は興味を引いたのかそれを拾い、羽織っていた自分の白い布を巻いてやり、歩き出した。
たどり着いた場所は残骸となった教会だった。ここなら誰かが拾うだろうと思い、男は煤けた像の足元に彼女を置き、十字を切って祈りを捧げ、教会を後にした。
「君はきっといい人生を歩むよ。だって神様に愛されてるから」
そう言い残して。



【1】
睨み合う、二人の少年。
「仕合開始!」
一人の少年が飛びかかるようにして剣を縦に振るうと、もう一人の少年はそれを真正面から受け、木剣がカン!と響く。
受けた少年は素早く剣を押し返して、開いた胴に思い切り蹴りを入れた。
「いて!」
受けてしまった少年は、後ろにごろごろと転がり込みお腹を抱えて膝をつく。

1/28/2024, 11:41:15 AM

街へ

電車の呼び鈴が鳴る。
家から急いで飛び出してきた私は休む暇もなく駆け込んで乗り込むと、すぐに扉は閉まってしまった。
この電車を逃してしまうと、この電車が次来る時は明日のこの時間だ。危なかった…。と胸を撫で下ろす。
それくらい何も無い田舎なのに街へ行くにはこの乗り物しかない。
寝坊したのも、忘れ物がないか準備や買い物リストのチェックやらで忙しくて家中は大騒ぎ、あれよこれよと時間がどっぷりと過ぎてしまったし、それに胸いっぱいの期待と興奮のせいで中々寝付けなかったせいだ。

一息ついて、切符をまじまじと見る。C-23と書いてある。
これが私の座席の番号。
少し乱れたスカートの形を整えリュックを背負い直して、案内板を見る。右は1〜10、左21〜30…と確認して歩き出す。
すれ違う隙間もない狭い廊下を歩き、次の車両の扉を開いて、番号を良く確認する。
「あった」
つい声に出てしまい慌てて口を塞ぐ。母の教えでは、誰か寝てるかもしれないから静かにしてね、と。
カーテンの仕切りを静かに開けると大きな窓…と狭い空間に狭そうなベッドが一つ。両サイドには硬そうで狭い長椅子。これは寝台列車というらしい。

とりあえず荷物をベッドに置いて長椅子に座り、外の景色を見る。何も無い真っ青な地平線だけが写っている。
あれ…こんなだったっけ?
街へ行くのは初めてではない。といっても記憶があやふやな位子供の時だけど。
椅子の硬さも覚えていない。眠るまで母の膝の上にいたから。母の言う事なんでも首に縦に振って、街がどんな所か聞いていた。いつの間にか眠ってしまった。次に起きた時はもう駅のホームのベンチだった。
あの街はすべてがキラキラしていてなにもかもが目新しくて知らないお菓子や便利なものに驚いて道行く人全てに活発さがあった。

靴を脱いだらリュックと自分の場所を入れ替えて、寝転がる。狭い天井にため息が出てしまう。
ここは少し記憶と違って残念だったがきっと今の街はもっと素敵な所になっているだろう。
まどろんだ目を瞑って眠りについた。


──終電、□□、□□。


重たい瞼を上げて、起き上がる。ベッドの質が悪すぎて背中が痛い。
ここで降りなければいけないのでリュックをさっと持ち上げて靴を履く。
カーテンを開けるともうこの車両の人は私以外いないようだ。

電車を抜けて降りたつと、ぬるい風が頬を撫でる。
ああ、昔見た小綺麗なホーム、見たことのない看板!
とあるものを見つけて駆け寄ると、大きい箱の中におしゃれなお菓子が沢山入っている。こんなものは私の住む所にはなかった。
出口はどこ?とキョロキョロと見渡し、見つけた人の流れに足早へ向かう。
切符を改札に通し、胸を躍らせながら大きな出口へ向かう。外へ。あとちょっとで憧れの街へ。