私は生まれつき目が見えない。
発覚した時、両親はひどく狼狽したが、娘が健康ならそれが一番と納得(?)したらしい。
難病や疾患のある子供のために怪しい宗教なんかにハマったりする親もいるのだと聞いたことがある。だから私はひどく安心したものだ。ちょっと悪く言えば、私の両親は呑気な人たちだったから、納得(?)できたのだろう。別に親が嫌いなわけじゃない。心配な時があるだけ。
とにもかくにも盲目の私は、これまでたくさんの苦労をしつつも生きてきた。
なんてことはほぼない。
ほんとうに。嘘なんかじゃない。
私は、世界を色で見ることができたから。
無機物は大体灰色に見える。
生物の見え方は、だいたい二つのパターン分かれている。
まずは感情や意思を持たないものは、目が見える人たちと一緒の色に見える。植物とか昆虫とかがそうで、葉っぱは緑や黄色に、モンシロチョウなら白といったふうに見えた。
次に感情や意思を持つもの。つまり動物や人間たちは、感情の色で見える。その人の全身が、その時の感情の色で染まるのだ。だから背の高さや体型なんかわかるけど、顔の良し悪しや表情なんかはわからない。
面白いのが、感情の色が人によって違うということだ。例えば悲しみなんかはよく青色だというけれど、人よっては黒と青が混じり合った色だったりするのだ。
これこそまさに十人十色だ。
色で見える世界。
当たり前だけど、他人の感情が見えるのって結構しんどい。優しい口調なのに、ふとした瞬間に赤黒い色(おそらく敵意)に変わったりする人も、私や女性と話している時に真っピンク色になっていた人もいる。
でも、感情が見えなくたって、人の敵意がしんどくなるのはみんな同じだ。人生で一瞬しか関わらないクズのために、どうして私が潰れなきゃならない。そんなのクソ喰らえ!というスタンスでいなければ、私は今日まで健やかに生きられなかっただろう。両親のある意味最強な呑気さ(?)を受け継いだおかけだ。本当に感謝している。
ちなみに、ここまでは私の見える世界、そして人生の超超ダイジェスト版だ。
大切なのはここからで、さっき私は人の感情はそれぞれ違うと言ったと思う。同じ感情でも、少しずつ色んな色が混じっていたりするので、一人として同じ色はないし、単色なんてことそうそうない。
ましてや黒一色だなんて人はほとんどいない。経験上、黒というのは絶望の色なのだが、どんな人でもわずかに別の感情が混じっていた。もちろん私が一色だけの人を見たことがないだけという説もあるが。
あぁ、過去の私よ。その説は正しかった。
「大丈夫ですか?」
今、目の前で私に手を差し伸べてくれている男性は、夜よりも深く暗い黒で、その一色だけで染まっていたから。
・*・*・
『色とりどり』プロローグ
※ラブストーリーです。色系のお題があれば、少しずつ書いてみようと思っています。
からりと晴れた空。
冷たい空気はほんのり甘く感じた。
「いい天気だよなぁ、ほんと」
へらへら笑っていれば、頭上から拳が降ってくる。ばきっ。目の辺りを殴られたけどまったく痛くなかった。
嘘だ。めちゃくちゃ痛い。容赦なく殴りやがって、いてぇな。
ばきっ。ぽた。ばきっ。ぽた。
「……泣くのか殴るのか、どっちかにしろよなぁ」
一週間ぶりの冬晴れの日、俺は最期を迎える。
息を吸うたびに傷が引っ張られて激痛をもたらし、吐くたびに温かい血が流れ出ていく。
背中側の湿った感触から、絶対に死ぬとわかる。助かる希望も可能性も、残念ながらありはしない。
「ふざけんな。お前、お前、絶対に帰るんじゃなかったのかよ」
「ははっ、俺、知ってるぞ。死亡フラグってやつだ」
自分で死にますって言ってたようなもんだよな、あれ。今思えばずいぶんとバカなことを言っていたと思う。
もう二度と戻れるはずがないのに。妻子の待つあの家に。小さな手が俺の頬に触れる。母になった妻の慈愛に満ちた笑顔。
あぁ、思い出したら、止まらない。
帰りたい。帰りたい。戻りたい。戻りたい。
もう二度と会えやしない。触れることはできない。
娘の成長も、妻のたくさんの表情も、なにもかも知らないまま、俺の時は止まる。
あ、とりーーー
手を空に伸ばす。何を掴みたいんだろう。
理解する前に、俺の意識は途絶えた。
※創作ではありません。
正直な気持ちを綴れば、私は今年の抱負という言葉が好きではありません。
とても気まぐれな人間なので、頑張りたい時と頑張りたくない時が頻繁に入れ替わります。
だから、今年いっぱい頑張る!頑張り続ける!ということが苦手です。抱負は文字の通り、私の(特に心の)負担となります。
自分でも、頑張るかダラけるかのどちらかしかない、みたいな極端な考えだなぁと思います。
抱負…のようで、そうでないもの。今年をどんな年にしたいか。
不器用から器用になろう。
走っていたら、いつのまにか自分の位置が分からなくなる人間だって、もう気づいてる。
だから飛ぶ。走って分からなくなるなら飛ぶ。疲れた時にだけ走るようにすればいい。
たくさんお話を書きたい。
好きな漫画やアニメ、小説や新書にどっぷり浸かりたい。
恋人はまだできなくていい。
だけど、いつか大切な人を見つけられるように準備をしよう。
今はこの愛情を私の友人に注ぐ。
ここだけの話、友人たちを恋人のように愛しくて大切な存在だと思ってる。
言葉にできないけれど、本当に大切な人たち。
一年はあっという間だから、いろんな感情を、体験をしよう。
私はそんな年にしたい。
新参者ですが、私の作品がみなさまの癒しになれたら幸いです。
お付き合いいただきありがとうございました。
良い休日を、ごゆるりとお楽しみくださいませ。
カーテンを開け、コーヒーを片手に日の出を眺める。
じわじわと下の方から、赤に染まっていく空、先導するように昇っていく太陽。毎年見ているけれど、飽きたりはしない。
零時を回っても、初詣に行っても、新年がきたという感じがしないのだ。私の始まりは、いつもこの日の出から。
コーヒーを啜った。白い息を吐き出す。
背中に重みを感じた。太い腕がお腹に回され、身体が密着する。寝起き特有の高めの体温に、私は苦笑いした。
「おもたい」
「……置いていく方が悪い」
肩にぐりぐりと頭を押し付けられる。髪の毛がくすぐったくて身を捩るが、まったく動けない。それどころか、さらに力が強まっていくものだから、いさぎよく諦めた。
されるがままになりながら、またコーヒーを啜る。
「あけましておめでとう」
「夜も言ったじゃん」
「この日の出見たら」
肩が軽くなった。ちらりと見上げれば、彼の視線はもう随分と赤くなった空に向けられていた。やがて視線がかち合う。
「また言いたくなった。毎年見てるの、これ」
「そうだよ。ちょっとした、新年のルーティン」
またぎゅうと抱きしめて、彼は満足げに笑った。
「いいね。来年も見よう」
「別れなきゃね」
「不吉なこと言うな」
朝のコーヒー、ベランダから見える日の出。今年のスタートはなかなか悪くない。そう思う。