シラヒ

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からりと晴れた空。
冷たい空気はほんのり甘く感じた。

「いい天気だよなぁ、ほんと」
へらへら笑っていれば、頭上から拳が降ってくる。ばきっ。目の辺りを殴られたけどまったく痛くなかった。
嘘だ。めちゃくちゃ痛い。容赦なく殴りやがって、いてぇな。
ばきっ。ぽた。ばきっ。ぽた。
「……泣くのか殴るのか、どっちかにしろよなぁ」

一週間ぶりの冬晴れの日、俺は最期を迎える。

息を吸うたびに傷が引っ張られて激痛をもたらし、吐くたびに温かい血が流れ出ていく。
背中側の湿った感触から、絶対に死ぬとわかる。助かる希望も可能性も、残念ながらありはしない。
「ふざけんな。お前、お前、絶対に帰るんじゃなかったのかよ」
「ははっ、俺、知ってるぞ。死亡フラグってやつだ」
自分で死にますって言ってたようなもんだよな、あれ。今思えばずいぶんとバカなことを言っていたと思う。
もう二度と戻れるはずがないのに。妻子の待つあの家に。小さな手が俺の頬に触れる。母になった妻の慈愛に満ちた笑顔。
あぁ、思い出したら、止まらない。

帰りたい。帰りたい。戻りたい。戻りたい。
もう二度と会えやしない。触れることはできない。
娘の成長も、妻のたくさんの表情も、なにもかも知らないまま、俺の時は止まる。

あ、とりーーー


手を空に伸ばす。何を掴みたいんだろう。
理解する前に、俺の意識は途絶えた。

1/5/2023, 1:22:21 PM