spine

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8/10/2025, 7:19:47 PM

 ふとした瞬間、驚く。自分でも気付かなかった癖のようなものを相手に認識され、さも当たり前のように振る舞われ、気を遣われる。
「あ、ありがとう。やっぱり優しいな!」
 照れながらもきらきらとした笑顔でそう言われるのは、これで何回目だろう。
 そう、周囲から思われるように動いているだけなのに。それをこうやって、言葉で伝えられる。望んでいた結果の筈なのに、いつもモヤリとして次の言葉に詰まる。
 それは多分、自分のどうしようもなく打算的で黒く染まった心が浮き彫りになるから。罪悪感とかも、全くないかと言われるとそうじゃないし。
「いやいや、普通ですよ。大袈裟だな〜」
 能天気に言ってのける。今はこれが一番、楽だから。何気なく話題を変えてやっと、安堵する。隣で笑う姿を見て、なんとなく目を背けて思う。
 本当に純粋で優しいのはあなたでしょ。

『やさしさなんて』〜これは、本当で嘘。〜

7/23/2025, 7:23:17 AM

 あなたが来てくれたというだけで、高揚感に埋もれてしまいそうになる。それと同時に、次会えるのはいつだろう、って思う。会話が止まったふとした瞬間に、時々。
 行こう、ってきらきらの笑顔で差し伸べてくれた手を掴んで、比較的綺麗な地面に座ってもらう。そんな気持ちが伝わったのか、次来る時は折り紙を持ってくるよ、なんて言ってくれた。紙を折って、飛行機とか、鶴とか風船とかが、作れちゃうらしい。
 一通り話終わった後、影が濃くなって来た。もう帰らなきゃ叱られちゃう、って言いながら、寂しそうに此方を見る。分かってる、さっきこっそり抜け出して来たって言ってたもんな…。分かってるのに、もっと一緒に居たい。
 すると、ポケットから取り出した何かを手渡してきて。甘くて美味しい飴、食べた事はない…けど。前話してくれたやつだって事は分かる。
 また、自分を思い出して会いたくなったら食べて、そしたら絶対来る、って。分かった!って言って手を振った。見えなくなっても。暗くなって街の灯りが光り出す。
 その時やっと、自分の手が冷たくなっているのに気付いて、いつもの定位置に戻る。此処には、光が差し込まない。怖くて手足が震えて、ぎゅっと膝を抱え込む。ポケットに大事にしまった飴を、ズボンの上から撫でる。今直ぐにでも食べてしまいたいくらいだったけど、口に入れたら溶けてしまうらしいから。それは、なんだか悲しい。
 この路地で、明日には生きてる保証なんてないけど。明日も明後日もその次の日も、生き抜いてまたあなたが来てくれるなら、耐えようって思える気がする。

「またいつか」〜いつか、っていつなんだろうな。〜

6/10/2025, 9:16:42 PM

 自分の眼球に、貴方が映っているのすら信じられない。流石、モデルだ。男性的な身体付きであり、所作はガサツでありつつも、淑やかさが滲み出ている。
「ちょっといいですか?」
「ん?どうした?」
 断りも入れず、髪に触れる。
「ゴミが付いてましたよ」
 嘘だけど。事前に手にしていた毛玉を見せる。
「ありがとな!」
 パチリと瞬きした後、眩しい程に感謝を伝えようとする表情に、目が釘付けになりつつも視線を逸らしたくなる。そんな顔を向けられていい人間なのかと、自問しながら。

 さらさらな感触が手から離れない。指先を見つめながら考えても考えても、答えは出なかった。

「美しい」〜答えなんてとっくに〜

5/20/2025, 7:34:47 PM

 目に入るもの全てが。うすく、あわく、色づいていく。瞬きをする度に、めいども、さいども、高くなっていくのを全身で感じた。
 遠い空が光に染まって。しょっぱい海の匂いが鼻をつんと擽る。目を瞑れば、潮の満ち引きが聞こえる。少し肌寒いくらいの涼しい風が肌を撫で、時々緊張で汗をかいた脇には半袖の隙間から侵入する。第一ボタンを開けたシャツの首元にはいつも着けたネックレス。からっとしていて冷たい空気に冷やされて、胸元が寂しい気がしたが、そんなものは直ぐに消えていった。
 夜明けが、来る。
 何度も見た夜明け。そんなに気に留めてもいなかったけど。偶に、途轍もなく恋しくなって、探し回った。
 いつかは来ると理性では分かっていても、なんとなくだけど。自分だけは永遠に夜が明けなくて、暗闇に取り残されて一人、居なくなる気がしたりして。そんな絶望かも願望かも分からないまま淡々と光り輝くナニカを眺めていたた。
 そんな、太陽。真正面から浴びたら焼き殺されてしまうくらいに強烈な。掴めそうで、掴んでいるようで空を切っていた腕を、やっと掴めた。
 今日は、いつもとは何もかもが違う。無抵抗に、それが世界の摂理であるように、真っ黒に染まっていた自分は、それに触れてやっと白くなれた。気がした、だけかもだけどね。真っ白に、とはいかなくても。今日、今この瞬間が一番、限りなく白に近づけたのは分かった。
 首輪も、足枷も、後ろに突きつけられていたものも取り払って今此処に居る。それだけで充分だった。
「もうそろそろ、夜が明けますね」
 これ以上ないくらいに幸せで、苦しそうで、泣きそうで…。
 近づいて、触れてしまったせいで多少、濁ってしまったかも知れないけど。
 手を取ると、優しく、力強く握り返されて。いつも通りに歩く。薄明の中、境界線へと。
 太陽は、嫌いだから。

「空に溶ける」〜Dawn cancel〜