微熱
私には、ずっと片思いをしている人がいる。
私の親友の幼馴染である光太郎くんだ。
二人と出会ったのは高校一年生の時。
陰気で大人しい私と友達になってくれた、親友の夏帆ちゃん。私とは真反対の人間。
そんな夏帆ちゃんを通して、光太郎くんとも出会って、今では三人で一緒に帰っている。
そんな日々が私には勿体無いくらい幸せで。
多分、夏帆ちゃんは私が光太郎くんのこと好きなのは知らない、はず。
そんなある日。
帰りの会が終わりいつもの様に夏帆ちゃんと帰ろうとした時、クラスの女子が夏帆ちゃんに声をかけた。
「ちょっと夏帆、今日委員会だって。あんた自分から入るって言ったんじゃん。」
「あー、忘れてた!」
そう言うと、夏帆ちゃんは私に向き直り
「ごめん、今日帰れない。下駄箱で光太郎待っちゃってると思うから二人で帰って!」
その言葉に、私はドキンとし、「…うん。」
と小さな返事しかできなかった。
教室を出て、重い足取りで下駄箱へ向かう。
どうしよう、嬉しいけど二人きりで話した事ないし。
何話そう。会話続くかな、緊張する。
そんなマイナスな事ばかりが頭の中をグルグルする。
というか、それよりも。
光太郎くんと二人きりで帰るって…。
ああ、駄目だ。
考えただけで顔に熱が集まる感じがする。
まるで微熱の様な、そんな感覚。
でも不快感はない。
「…熱でそう。」
セーター
学生にとって、冬はかわいいセーターを着るのが一つの楽しみだと思う。
なのに、うちの学校は謎の校則のせいで、セーターの上からブレザーを着ないといけないというルールがあった。
もちろん、その校則に対し私含め女子はみんな文句を言っていた。
「制服とセーターの組み合わせが可愛いのに!」って。
でも、だからこそ大人になった今思うのだ。
学校帰り、こっそりブレザーを脱いでそのまま友達と遊びに行った放課後。
同級生にバレないか、と少しヒヤヒヤしながら入ったゲームセンター。
新鮮なセーター姿で撮ったプリクラや写真。
今思えば、その思い出全てが降り始めの雪の様に輝いていて。
そのことを仕事帰り、セーターを着ている学生に会うたび思い出すのだ。
私の冬は、とても綺麗で温かいものだった、と。
落ちていく
冷たく暗い海の中に一人でいる、そんな気分だ。
自分の上で必死に上を目指し、泳ぐ人たちをただ見つめているだけの毎日。
優しい人に「頑張れ」「ここまでおいで」
そう言われても、私は泳ぎ方を知らないから、もう間に合わないから、と自分に言い訳をし動かない。
人生二十一年目、様々な「優しい人」に出会ってきたけれど、みんな上から声をかけるばかりで、私を迎えにきてくれる人なんていなかった。
まあ、自業自得なんだけれど。
人生の波に争わず、そのまま流され落ちていった結果がこれ。
こんなふうに、これからの人生も一人で孤独の中に落ちていくんだろうなって。
夫婦
柄の違うコップや枕。私の嫌いな匂いの香水。
君のために作った夜食を冷蔵庫に入れる毎日。
ああ、どうしてこうなったんだろう。
いつからだったかな。
君の背中を見て寝る様になったの。
君におやすみとおはようを言わなくなったの。
君が、私に大好きって愛を伝えなくなったの。
私達はたしかに愛し合っていたはずなのに。
ただ、関係の名前が恋人から夫婦に変わっただけで、こんなにも変わるものなのだろうか。
夫婦になったら、もっと関係を深める事ができると思っていたのは私だけだったのかな。
「…私だけ考え込んで、あほらし。」
愛の対象は変わらないはずなのに。
夫婦と恋人って何が違うの?
どうすればいいの?
私には貴方がいないとだめなの。
私、なんでもするよ?
だから私のこと嫌いにならないで。
もう一度すきって言って?
ねえ、お願いだから。貴方がすきなの。
あなたにまで見捨てられたら私…どうすればいいの?