緑川 悟

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11/8/2022, 12:52:56 PM

「それ、意味ないよね?」
歯磨きしている妻が呆れたように僕にため息をふりかける。床にはパンパンに荷物を詰めたリュックサック。
「それなら君の歯磨きの方が意味ないよ」
「これは毎日のおつとめでしょ。あーあ、あなたって昔から不潔よね。急いでる時は歯磨きしない派でしょ」
妻からのお小言もどこ吹く風。夢中で荷造りを終えた僕は彼女の手を引っ張った。
「今日一日だけなのにそんな荷物重いだけじゃない」
「万が一があるだろ。よし、行こう」
車に乗り込みエンジンをかける。静かな街には僕らの走行音だけが響いていた。
ラジオのボリュームを捻ると、人類を滅ぼす小惑星が間も無く落下することを機械音声がただ淡々と繰り返していた。
赤く燃えるそれは美しくて、妻はスマホのカメラを向けると何枚も写真を撮った。たとえそれが、もう意味がないことだとしても。

11/6/2022, 8:24:22 PM

春先の雨は柔らかい。あなたはそう言って傘を畳むと降り出した雨を味わうように肌へと塗り込んだ。

やめなさいよ、と私は笑って止めたが雨に濡れた彼女の肌は美しく、どこか羨ましいものを感じる。

少し傘をどけて手のひらに雨を集め、おもむろに顔に当ててみたが、顎髭の硬さにそれは邪魔されてしまった。