「遠い日のぬくもり」
今日はだいぶお酒を飲んだな。
クリスマスイブに一人お酒を飲みながら過ごす。これはこれでわるくない。いや、わるくないなんて強がった言葉を使うなんて自分らしくないな。
想いが届かない辛さや寂しさを紛らわすために好きなお酒をたくさん飲んで考えられないようにしているだけなのに。
今はもう無い昔僕に向けてくれた優しさの記憶を大切な宝物のように手放せないだけなのに。
「揺れるキャンドル」
暖房の風がキャンドルの灯りを揺らす。
話し合いは難航し一向に進まない。こんな話をしなければならないなんてあの時は想像もつかなかった。
さっきまでの怒鳴り合い罵り合いが嘘のように今度は沈黙の時間が続く。
なんでこんなことになってしまったんだ。
そして彼女が泣き出す。僕は何も言うことができずクリスマスプレゼントを持ったままその姿を眺めている。
キャンドルの灯りが揺れて消えた。
「光の回廊」
ありがとう。
街は彩られ一気にクリスマスモードに突入している。街路樹のイルミネーションも年々輝きが増しその光に挟まれた車のヘッドライトですら演出のひとつかと思うほど綺麗に見える。
僕はまるで違う世界に迷い込んだように街路樹の下を歩く。たくさんの光が僕の心をどの角度からも照らしてくれるから怖くはない。
もういっそ光の世界に閉じ込めてほしい。
光の中を彷徨えばきっといつか答えを見つけ出せそうだから。
「降り積もる想い」
初めての駅に降り立つ、うん、清々しい。
ホテルのチェックインまであと2時間、周辺散策かな。
商店街を歩く、駅前に商店街がある街は大好きだ。
名物の和菓子屋や普段は行かない金物屋などに立ち寄り時間をつぶす。
次はどこに行こうか迷う、暇つぶしは苦手かな。
いや、苦手というか集中できないと言うか、
どうしてもダメだとわかっていてもまだあの人のことを想ってしまう。
「時を結ぶリボン」
会社の飲み会が終わり各自帰路につく。1人二軒目に悩んでいると課長にこのあとうちで飲もうよと誘われた。初めて来た職場の人の家ましてや上司の家ということもあり少し緊張していた。
「ゆっくりしていってよ」そう言い缶ビールを僕に渡すと課長はキッチンに向かっていった。奥様と3歳になる息子さんは今日は実家に帰っていていないらしい。
僕もなにか手伝おうとキッチンへ向かった。キッチンでは課長が簡単なおつまみを作ってくれていた。料理下手な僕はただその姿を眺めるだけだった。
ふとキッチンの棚を見るとお酒があまり詳しくない僕でも知っている高級なウイスキーが置いてあった。そのウイスキーには普段はないリボンがつけられていた。
「あっ、このお酒知ってます!すごく貴重なやつですよね!」
飲もうと思っていたわけではないがおもわず聞いてしまった。少し気まずい顔をしていると課長は嬉しそうに話し出した
「おお、知ってるかこの酒!かなり高かったぞ、でもどうしても欲しかったんだ、息子が生まれた時に買ってリボン付けといたんだ、息子が二十歳になった時に一緒に飲みたくてさ」
できたおつまみを皿に盛りながら話すその姿は幸せそのものだった。
課長が作ってくれたおつまみを食べながら自分が初めて父と一緒にお酒を飲んだ日を思い出し目頭が熱くなった。