【風を感じて】
風を感じていられる程 余裕なんてなかった
ただこの街で生きていられる
それだけで心が弾んだ
人々に埋もれるだけで安心出来た
電車から見るぎゅうぎゅう詰めの街並みに安堵した
人が行き交う街が好きだ
他人に対して希薄なのが心地良い
誰も私なんか見ていない
自然の中で誰一人いない自然が私は怖い
漠然と怖い
景色が綺麗でも人が居ない所は
人間が恐怖するように出来ている気がする
人が人を求めて村になり町になり街になる
私は地方都市でも誰も歩かない所は嫌いだ
人の息遣いを感じない街が嫌いだ
たまに風を感じられる位で十分だ
【やさしさなんて】
「やさしさなんて」と言うタイトルに違和感があった
子供にお腹いっぱい食べさせる為に子供に構えず直接やさしく出来なくても、その心と行いは【やさしさ】
まだ小さくて言葉も分からない子供に必死に
ダメな事を泣いている子供に躾をする事も【やさしさ】
この子の為を思う、その気持ち
やさしさなんてのなんてって何だ?と考えた
【やさしさ】+【なんて】=【やさしさなんて要らねぇ】だろう
そんなやさしさなんて要らねぇから
早く旦那(奥さん)と別れてよ
そんな心情が垣間見える気がした
相手がその人の為に家庭を壊すとしたら
鬼になれと言う事
鬼になって私の所へ来て欲しい
自分だけの物になれ
やさしさなんて要らねぇから
早く家庭捨てて来いよ
その家庭を捨てたら
欲しいのはやっぱり【やさしさ】なんじゃないかと思った
だから【やさしさなんて】という心境は
人には無いんだと思う
【夢じゃない】
近づいてきた顔
これは夢に決まってる
『昨夜は遅かったの」と心で呟いて寝返りをうつ
何か変な気配……生温かいような波動
「ドア…開いてましたよ…用心してくださいね」
だっ誰?!
見知らぬ男は
向かいのアパートから毎日私を観ていると
「心配ですからね……君と僕は結婚するんだから」と全く知らない男は私に言った
狂気とはこのこと
私は無言でいた方が安全たと思った
見知らぬ向かいのアパートの男は
ただ私の歯ブラシを1つだけ持って帰って行った
こんな事ってあるんだ
夢じゃない
【心の羅針盤】
目的に向かうのが羅針盤だとずっと思って生きてきた、だけど目的がなくなったらどうして良いのか分からなくなった
目的がないならその日の心の揺れるままに
ゆったりと海に浮かんでいても良いなと思うようになった
人との関わりを避けられないこの世の中なら
周りをよく眺めて前に出たり下がったりと
調和しながら…その日その日揺れて生きていくのが心の羅針盤になっている
【またね】
私の中で「またね」と言う言葉が特別になったのは、小学5年生の時にたった一人の親友が
転校してしまってから……
サヨナラと言えず「またね」と言った
小学生の私には一人で行けるような所ではなかった、それは外国だったから…
手紙を書いて出す勇気も無くて
まだスマホが無いから電話はお金がかかるから……
何よりも、もう二度と会えないと
遠く遠く私には遥か彼方へ行ってしまう気がしていたんだ
そんなセンチメンタルな気持ちでいた私に
一通のエアメールが届いた
そこには満面の笑みの親友の写真が同封されていて
フランスでは小学1年生のクラスに入ったこと
でも、挫けないで頑張ると書いてあった
そして、大学は日本の大学へ行くから
「会おうね!」と約束した
それから細く長く続いたエアメールは
今年3月で途絶えた
私達は入学式のある大学の校門の前で
エアメールではなく
笑顔で名前を呼び合い抱き合った
私は嬉しくて泣いた
だから私には「またね」は希望の言葉になった
【泡になりたい】
「これを3錠飲んだら本当になりたい物になれるの?」トロンとした目でヒサシの肩に顎を乗せて泥酔した私はその錠剤を見ていた
もうこの酔のまま覚めたくなかった
「人魚姫になれますように」
私はその錠剤を気持ち良くシャンパンと一緒に飲み干した
グラングランしてきて訳の分からない叫声をあげた、既に私ではない
意識はない
私は泡を吹いて床に仰向けになっていた
「もう少しで人魚姫にしてやるからな」とヒサシは言った
私はヒサシを愛してる、全ての望みを叶えてあげたい、なのに……ヒサシには彼女が居たなんて…だけどヒサシの願いを聞いたら私を1番に愛してくれるって言った
「愛してるよ、だから俺を助けて!
マリしか居ないんだよ」って言うから
差し出された紙に名前とヒサシが用意した印鑑で判を押した
それから一緒にお酒をいっぱい飲んで楽しかった、それなのにヒサシは彼女と結婚すると言った、「酷い!嫌だ!そんなの」と私が泣くと
「愛してるのはマリだよ」とまたお酒を私に注いだ、ヒサシの囁きは甘かった
「おっ!来た来た、遅いよ〰️
近くにいろって言っただろ
車に乗せるから手伝えよ」
そう言ってヒサシは弟分に金を渡した
「今、人魚姫にしてやるからな
泡になりたいんだろ」
その声を聞きながら私は海へ沈んで行った
足首に重りを付けられて……
重りの付いた人魚姫なんて居ないよヒサシ………
ヒサシ1つだけプレゼントを残してきたよ
ホテルの引き出しに
「私はヒサシに殺されます
いえ、殺されました」ってメモに書いてきたの
サヨナラ、ヒサシ
私、満足よヒサシに殺されて
だって死にたかったの
私が彼女だと思ってたのに利用しただけなんて、
だけどヒサシ、幸せになってね
ヒサシを本当に愛してたら彼女は許してくれるはずよ、殺人犯のアナタを…