一人でいることは別に苦痛ではなかった。
近くにはいないけど、僅かながら自分の理解者もいることを知っているからだ。
大勢で何かやるのは苦手だったし、自分でも無理をしているとわかっていた。
同じような人間なんて、学校の集団生活においては極々少数派。噂や憶測でさらにイメージは悪化し、変人扱いされている。
華々しい学生時代なんてものに、憧れてもいたけれど。小学校高学年からそんなものは無いと諦めた。
人気の無い屋上はベタだけど、陰キャには好都合だった。友人と離れ離れになった進学先、知り合いはゼロ。新しい友達は出来ないけど、毎日のようにLINEが来る。そのメッセージに安堵していた。
誰もいないと思いこんで、スマホを見ながらニヤニヤしていると。
「…あれ、隣の席の○○さん」
「…あ、人居た。名前覚えてくれてたんだね」思わず声がでた。彼は隣の席でいつも寝ている人だった。
「学校だるいねー。超眠い」
「え、ずっと寝てるじゃん。」
返答には返答せずに、彼は我が道を行く。あくびをしつつ、菓子パンの袋を開けていた。
「たまに起きてるじゃん。上手く回避してるでしょ?」
「くっそ真面目にやってて、馬鹿みたいだわ」
「○○さんって以外と真面目なんだね。そんな風に見えないから。」
「君は世渡り上手そうだな」「褒めてる?」
初対面ではないものの、初めて喋った隣の席の彼は不思議と話し易かった。他愛のない話で退屈だった学校生活に彩りが出来た。クラスでは変人二人がよくつるんでいることで、また非ぬ憶測や想像で遊んでいる。
「俺、人と居るの面倒だなって思ってたけど、○○さんは違うなって思った。なんて言ったらいいかわかんないけど」
「…私だって、自分を理解してくれない連中と話すのは面倒だと思ってる。でも君は違う気がする、私もなんて言ったらいいかわかんないけど」
恥ずかしくて、気持ちを言葉になんか出来ない。
言葉に出して、今の関係が壊れたくない。
きっと私も彼も同じだった。
その答え合わせは数年後先の未来にて。
祝福の声と鐘の音が聞こえる。
言葉に出来ないものの答えが運命だったのだと。
春の到来を告げる梅が咲き。菜の花が咲き。
桜が咲いて。
次の休みに桜を見ようと思っていても、
花散らしの雨が降り。花見をする暇も無いくらい、あっけなく散ってしまう。
春爛漫と言えるのは1年でほんの数日間しか無いんだろうな。
貴重だからこそ、四季だけで春だけが爛漫をつけられるのかもしれない。
紫陽花がたくさん咲いても、梅雨爛漫。
向日葵畑や朝顔が花火のように咲き乱れても夏爛漫。
とは昔の人は表現しなかった。
秋も冬も菊や山茶花が咲いてもそうは言わない。
その植物が日本に入ってきたタイミングにもよるのかもしれないけど。
日本人にとってやっぱり桜は特別なんだなと思ってしまう。
「あなたは出来ないから。」
今でも私を呪う言葉だ。
13歳までの記憶や経験でその人間の人格形成が決まるという話を知ったのはつい最近のことだ。
小学四年の頃の担任は、成績至上主義の人間だった。
その頃の私は勉強よりも体育とか図工の方が好きだった。担任から授業中に当てられた時に算数の問題を間違えてしまってから。
私はその先生から「出来ない子」認定される。
同じように「出来ない子」認定されたクラスメイト数名と共に、放課後居残りされられたために。
担任は「お残り6(シックス)」と某アイドルグループをもじって、全クラスメイトに晒し者にした。
算数の代わりにポスターや工作で金賞や銀賞をとっても。私の評価は上がらなかった。
両親の教育方針は、先生の言葉は絶対だと言われていたのもあり。当時の私は全てを鵜呑みにしていた。
「あなたは出来ない子だから」先生にそう言われた。
何も出来ない。どうせ出来ない。無理だ。
両親になんでやる前から諦めてるんだ。とよく言われたが。「どうせ出来ないから」と私は言っていた。
ピアノも水泳もやる前から諦めた。
「出来ない子」だからね。私は。
大人になってどうしてこんなに自分に自信が無いのか。自己肯定感が低いのか。原因不明だったけど。
過去を遡れば、原因となったのはそれしか考えられなかった。
大人になってから気がついた、自分がやれば出来る人間側だったことに。それでも自信は生まれない。
確かに私は要領の悪い出来ない子だった。
だから高校も専門学校も出来る限りのことはやった。
専門学校は首席になった。
就職しても誰よりも頑張ってやろうと思った。
ねぇ先生、私の事なんか覚えて無いだろうけど。
9歳の小学生にとんでもない爆弾落としたんだよ。
大人になってわかったよ、勉強も大事だけど。
勉強だけじゃ、社会では何の役にもたたないって。
先生は気遣いや思いやりは皆無だったんですね。
出来ない子と言われた6人の生徒達は
誰よりもずっと努力して、一生懸命生きてる。
仕事に育児に。全身全霊かけてます。
当時の先生と同じ年齢くらいになったけど。
あなたが放った呪いの言葉は今でも心に刻まれてしまっている。
体調が悪い時はネガティブな言葉ばかり考えてる。
いや、体調が悪いわけでもないのかも。
この胃痛の正体はストレスだから。
また長い時間をだた拘束されるだけの時間。
誰か助けて、全然つまらん、勉強にもならない。
ただ貴重な時間を無駄にしてる感じ、休みとして休めないこの無駄な待機時間。
合わない。心の底から帰りたいって思った。
やることないなら、帰してくれ。そう思った。
連絡がほしいな。と思っていたところで。
連絡が来ると、ホッとする。
知らない人間ばかりのアウェーな空間に置き去りにされた気分だったから。
何気ない連絡が嬉しかった。
ありがとう!本当にこれは今の私には染みる。
心配してくれる声や、帰ってくれるのを待ってくれる
言葉が嬉しかった。
私もその親友や仲間がそうなった時、手を差し伸べたい。
そんな持ちつ持たれつの関係でいたい。
これからもずっと。
感謝してます。
紅葉する木々の隙間から、差し込むオレンジの光は
少し寒くなってきた夜の第一幕。
紅葉を撮影する人の影が、群舞のようだった。
綺麗な夕日はあっという間に沈んで、
星を連れてやってくる。
何気ない日常風景のはずなのに、疲れた日は夕日が目に染みる。
何で涙が出るのだろう。
頑張ってるはずなのに、報われないこの虚無感は何処からやってくるのだろう。
相談しようと思ったけど親友に愚痴を聞かせたくないと。躊躇して。
溢れる涙を止められない。