そ
の
窓
に
生
ま
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守
宮
の
そ
の
窓
に
て
首
を
振
上
ぐ
る
そ
の
目
台風が来るというのに玉葱は芽を出してるし最終話だし
視界の端に仄白いものが過った。あれ、と思うも束の間、今度は硝子戸のむこうにある隣室に灯りがつく。ぱ、と鳴る。人感センサーが反応していた。灯りが消え、間髪入れずに玄関の戸を外から掻く音がし、それも止んだかと思えば今度は天井裏に足音がある。その繰り返しである。懐中電灯を片手にそれぞれの部屋を巡るものの正体は掴めない。鳴り様が部屋によって変わるのだ。いずれも同時には鳴らぬ。だから同じものが鳴らしているように思われる。虫よりは重い。鳥ではない。けれども、各々の部屋の音の示す質量はすべて異なっている。鼠ほどのものを感じさせる音もあれば猫の立てるような音もあり、戸を掻く音は幼児の爪を思わせる。似たような話をどこかで聞いた気がした。鵺。ではこれは客か。そう呟いた瞬間すべての気配は止んで、それぎり何も鳴らぬ。
ま
な
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し
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なんらかの甲虫が死んだ。ブラックキャップの横にあり、仰向けに転がっている虫だった。
肢のそれぞれが左か右かにかたわれを持っている、それが三組具わっている、やけに筋肉質な、従って水っぽくもある腹を、私は見ている。三基は左右を交互にぐるりぐるりと伸ばそうとする、空を掴んでは地面に叩きつけられる、ときおり前肢の左右が地面を掴んでわずかに上体を跳ねさせる、だからほんとうは身体を起こしたいのかもしれなかった、けれども後ろの二基は前肢に対してあまりに細く弱々しいので、浮いた背中はもういちど地面に叩きつけられるだけである。もがいているように感じられた。これが毒にやられたのだとしたら欲しいのは水だろうに、水っぽい音を立ててあちらこちらの空を掴んでは千切り、そのたび期待するような肢先のひくつきが裏切られる。
すべての肢が太かったならこの虫は生きたのか。わからない。そもそもどうして死んだのかも知らない。疲れたのかもしれない。
動かなくなった身体を念のため一叩きしてからくずかごに放った、ハエ叩きには思いがけない色のほとばしりがついた。なにもかもわからないもののなにもかもわからない殺生をした、なにもかもわからないように殺そうとしたものは恐らくまだ生きてある。雨はまだ降らないのに水がある。目の前にいたものにもあって、目の前にないものにもある。書かねばと思った。