【木枯らし】
国語教師の私は、今年卒業する予定である3年B組の担任をしている。
3年B組は元気がいい。(はっきり言えば話を聞いてくれない、うるさい、反抗的だが。)
そんなB組の1人に私は頭を悩ませていた。
『峰君。英語ができてるなら国語もできるはずだと思うけど、、』
『さぁ、、人には個人差があるんですよ。美穂せんせ?』
身を乗り出し、私と距離を詰めてくる彼。
彼は峰珠紀。
成績優秀でスポーツもできる。
まさにみんなの理想の人物だろう。
そして何より、彼は私から見ても整った顔をしている。
同い年だったら付き合うことも考えただろうが、今は教師と生徒の関係。
生徒に手を出したとあらば、私は懲戒免職どころかマスメディアの格好の餌食だ。
それなのに、、
彼は私に好意を持っているらしい。
何故なら。
・急に国語だけの点数が落ちた
・よく好きなタイプを聞かれる
・彼氏はいないのか聞かれる
・2人きりで話すことが多い
これはもう、、自信を持っていいレベルだろう。
今回のテスト、彼は国語だけ赤点を取った。
絶対わざとだろう。
赤点者は補習を受けることになっている。
今のところ補習者は彼と私と篠生由佳さん。
篠生さんは病弱であまり学校に来れてない。
だから、この補習を勉強がわりにしているのだ。
一瞬、彼女目当てでこんな事をしたのかとも思ったが、彼と彼女は接点がまるでない。
これは私だろう。
人から好感を持たれることは多々あったが、自分から気づく事はなかった。
改めて意識してみると、何故か緊張してくる。
私はドキドキしながら補習の準備をウキウキとしていた。
いつもより違うメイクをしてみたり、普通の黒スーツから少しオシャレなフリルブラウスのスーツにしてみたり。
こまめに口紅を塗り直したり、髪の毛も崩れない様整えたり。
イメチェンをして彼が気づいてくれるのが、微かに嬉しかった。
ーーー
3日間の補習が無事に終わった。
『先生。ありがとうございました。』
『あっ、ありがとうございました、、』
にこやかな笑みで私に挨拶をした彼。
そして吃りながらも彼に続いてお礼を言った彼女。
『はい。しっかり復習しておきましょうね。さようなら。』
『さようなら。』
『さよなら。』
2人が出て行った後、私は1人余韻に浸る。
彼はこれからもっと赤点を取って私のところに補習をしに来るだろう。
私はもっと自分を魅せるために努力をしようかな。
夕日が綺麗だ。
澄んだ気持ちで夕日を見ていたら、、
校舎から生徒が並んで出てきた。
『あ、峰君と篠生さんだ。』
ジッと見つめていれば、2人は手を繋いでいるではないか。
瞬間、今までの私の恥ずかしい妄想と自分の思い上がりがフラッシュバックし、その場にへたり込んだ。
『はー、、、はっっずかし、、』
勝手に勘違いして、思い上がって。
『ちょっ、、ええ、、マジかー、、』
そもそも、私は自分が見えてなかった。
まず、先生と生徒が付き合えるわけがない。
これは最初に自分でもわかってたはずだ。
彼に呑まれた。
思わせぶり?いや、彼はそんな事、露ほども知らないだろう。
私が勝手な勘違いで彼にハートを飛ばしていた。
これが1番恥ずかしい。
『はぁ、、帰ろう、』
裏門から出ると、もう冬なのか冷たい風が吹いた。
『勘違い 恋に焦がれて 羞恥心』
ネタとも言えない一句を詠むと、びゅうぅと大きく風が吹いた。
まるで、誰にも言えない愚かな勘違いをした私を、嘲笑うかの様に、木枯らしがもう一度ひゅうと吹いた。
【この世界は】
嗚呼、、風になりたい。
今の私の心情だ。
受験勉強、受験生としての自覚、面接の練習。
何もかもが初めての経験であり、何もかもが不安に感じる。
受験勉強、受験勉強、受験勉強。
毎日毎日そればっっかり。
私の心は徐々にすり減り、遂に泣いてしまった時もあった。
でも、どれだけ不安に思って怖い怖いと言っていても、結局入試の日は来るし、合否発表もある。
だから今、明日の自分に自信を持てる様に努力を重ねよう。
小さな事でいい。
何か一つ、明日の自分に自慢できる様な事をしよう。
そうしたら、その世界は少し色がつく。
私がつけていく、私だけの世界なのだから。
さぁ、君も、明日の自分に誇れる様に。
不安だけれど一歩を、踏み出そう。
世界に色をつけるため。
思いつかないし受験生だからしばらく書くのやーめよ
【逆さま】
世界を逆さまに考えてみよう。
全てを逆さまにしよう。
人は四足歩行で歩き、動物は人間の言葉をしゃべる。
車は空を飛び、飛行機は地底を進む。
水=火となり、火=水となる。
、、、、ちょっと意味わからないよね。
つまり、何もかもが逆になった世界を想像するということ。
そうしたら、君はどう感じる?
放課後の教室。
辺りには気配がなく、まるで真夜中の学校のよう。
茜色の夕日がさす教室に、スラックス姿の男子が2人。
1人は椅子に座り、学級日誌を書いており、もう1人はチャラそうに机の上に座り、日誌を書いている男の子の手元を見ている。
『どうって、、別に何とも思わないよ。いいんじゃない?逆さまになっても。人間は順応する生き物だから。』
そいつはニコと笑い、机から降り日誌の俺の前に来る。
『お前、、いいやつだな!』
満面の笑みで俺を見る。
俺は無心で日誌にペンを走らせる。
昔から表情を読みにくいと言われてきたが、毎回自分でも自分の表情筋を疑う。
『、、別に、僕は自分の考えを述べたまでだし。でも、何で急にそんなこと聞いてきたの?』
途端に黙り込むそいつ。
誰もいない教室に、俺のペンが走る音だけが静かに聞こえる。
『それは、、その、、』
何か言いにくい雰囲気を感じとり、俺はペンを置いて俺を見下ろしているそいつと目を合わせる。
『あ、、え、、と、、、』
そいつは目をキョロキョロと泳がせる。
『何?』
急かすと、観念したように頭をガシガシかいて真面目な顔で俺と目を合わせた。
『俺、、ゲイなんだ。』
は、、
声こそは出なかったが、口がだらしなく開いた。
『そ、、か。』
それだけしか出てこなくて、頭が追いつかなかった。
ゲイ。
保健の授業で少しだけ習ったが、ゲイは男の人が好きな男の人のことだ。
俺はその辺に理解はあるが、自分はそうじゃないから実感というか、本当にいるんだという感情だ。
『、、、引いた?』
『、、いや。ちょっとビックリしただけ。お前はお前でいいと思う。』
そいつは嬉しそうにはにかんで、俺を見つめる。
その目は、何だが情熱的だった。
『俺、お前が好きだ。』
次は驚きはしなかった。
薄々勘づいていたから。
時々向けられるその情熱的な瞳。
俺と話すと楽しそうな声のトーン。
俺は親友の方が強かったけれど、そいつは恋愛の方が強かったらしい。
『うん。』
『俺、、これだけ言いたかった。いつも俺の話を受け止めてくれるお前が好きだ。否定もしない、肯定もしないお前が。頑張りを認めてくれるお前が。好きだ。』
でも、、さすがの俺でも自分の感情は感じ取れなかったようだ。
そいつとは、長く親友をやってきた。
親友がゲイでも、何でも俺は受け入れる。
例え、俺が親友としてそいつを好きでも。
恋愛的な感情にならなかったとしても。
これからそうなるかもしれないから。
お前とこれからも一緒にいたいと思ったから。
見た目によらず、人の細かいところまでよく見てて、良い褒め方をしてくれる。
俺の大切なやつだよ。
『こんな俺、、キモいよね。ごめん。』
立ち去ろうとするそいつの手を、咄嗟に掴む。
振り返るそいつの顔は、夕日のせいか茜色に染まっていた。
『俺、お前がゲイでも、お前が俺のこと好きでも、受け入れる。これからも、ずっと一緒な。』
『っ、、、うん。ありがとう。俺、やっぱお前好きだ。』
『少しずつ、お前のこと知って、好きになっていきたい。お前の気持ちは届いたから。』
『おう。』
その日。俺の中で世界はひっくり返った。
いとも容易く、逆さまに。
【眠れないほど】
いつでも君の無事を祈る
ご飯の時も、お風呂の時も、食事の時も。
布団に入ったら、君と過ごした思い出を脳裏に浮かべて。
朝起きたら、今日も君を思うと誓って。
歩いていても、頭の中は君ばかり。
今日は話せるかな。
今日の君の服はなんだろう。
君は今日楽しく過ごすだろうか。
どんなことをしていても、たとえ明日世界が滅んでも。
眠れないほどに君に夢中で、君を愛してる。