駄作製造機

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【逆さま】

世界を逆さまに考えてみよう。
全てを逆さまにしよう。

人は四足歩行で歩き、動物は人間の言葉をしゃべる。
車は空を飛び、飛行機は地底を進む。
水=火となり、火=水となる。

、、、、ちょっと意味わからないよね。

つまり、何もかもが逆になった世界を想像するということ。

そうしたら、君はどう感じる?

放課後の教室。
辺りには気配がなく、まるで真夜中の学校のよう。

茜色の夕日がさす教室に、スラックス姿の男子が2人。

1人は椅子に座り、学級日誌を書いており、もう1人はチャラそうに机の上に座り、日誌を書いている男の子の手元を見ている。

『どうって、、別に何とも思わないよ。いいんじゃない?逆さまになっても。人間は順応する生き物だから。』

そいつはニコと笑い、机から降り日誌の俺の前に来る。

『お前、、いいやつだな!』

満面の笑みで俺を見る。
俺は無心で日誌にペンを走らせる。

昔から表情を読みにくいと言われてきたが、毎回自分でも自分の表情筋を疑う。

『、、別に、僕は自分の考えを述べたまでだし。でも、何で急にそんなこと聞いてきたの?』

途端に黙り込むそいつ。
誰もいない教室に、俺のペンが走る音だけが静かに聞こえる。

『それは、、その、、』

何か言いにくい雰囲気を感じとり、俺はペンを置いて俺を見下ろしているそいつと目を合わせる。

『あ、、え、、と、、、』

そいつは目をキョロキョロと泳がせる。

『何?』

急かすと、観念したように頭をガシガシかいて真面目な顔で俺と目を合わせた。

『俺、、ゲイなんだ。』

は、、
声こそは出なかったが、口がだらしなく開いた。

『そ、、か。』

それだけしか出てこなくて、頭が追いつかなかった。

ゲイ。
保健の授業で少しだけ習ったが、ゲイは男の人が好きな男の人のことだ。

俺はその辺に理解はあるが、自分はそうじゃないから実感というか、本当にいるんだという感情だ。

『、、、引いた?』
『、、いや。ちょっとビックリしただけ。お前はお前でいいと思う。』

そいつは嬉しそうにはにかんで、俺を見つめる。
その目は、何だが情熱的だった。

『俺、お前が好きだ。』

次は驚きはしなかった。

薄々勘づいていたから。
時々向けられるその情熱的な瞳。
俺と話すと楽しそうな声のトーン。

俺は親友の方が強かったけれど、そいつは恋愛の方が強かったらしい。

『うん。』
『俺、、これだけ言いたかった。いつも俺の話を受け止めてくれるお前が好きだ。否定もしない、肯定もしないお前が。頑張りを認めてくれるお前が。好きだ。』

でも、、さすがの俺でも自分の感情は感じ取れなかったようだ。

そいつとは、長く親友をやってきた。
親友がゲイでも、何でも俺は受け入れる。

例え、俺が親友としてそいつを好きでも。
恋愛的な感情にならなかったとしても。

これからそうなるかもしれないから。
お前とこれからも一緒にいたいと思ったから。
見た目によらず、人の細かいところまでよく見てて、良い褒め方をしてくれる。

俺の大切なやつだよ。

『こんな俺、、キモいよね。ごめん。』

立ち去ろうとするそいつの手を、咄嗟に掴む。
振り返るそいつの顔は、夕日のせいか茜色に染まっていた。

『俺、お前がゲイでも、お前が俺のこと好きでも、受け入れる。これからも、ずっと一緒な。』
『っ、、、うん。ありがとう。俺、やっぱお前好きだ。』

『少しずつ、お前のこと知って、好きになっていきたい。お前の気持ちは届いたから。』
『おう。』

その日。俺の中で世界はひっくり返った。
いとも容易く、逆さまに。

12/6/2023, 1:21:59 PM