「今までありがとう。神様。」
そう言った君の手は、皺皺で力なかったけど、それは懸命に生きた証だった。
母の病気平癒のために熱心に通う子供だった。
雨の日も、風の日も、雪が深い日も、日差しが強すぎる日も、毎日欠かさず通うものだから当時はまだ未熟で、あまり力がなかったけれどなんとか助けたくて周りにお願いしてようやく薬を手に入れた。
ある日、人に化けてさりげなく薬を渡す予定だったのに、尻尾が隠しきれておらずすぐにバレてしまった。
恐怖に身体を震わせながら必死に母のために懇願する姿に堪らず涙が出てしまいながらも、手に入れた薬を手渡した。
後日、元気になった母とお礼に来てくれた時は本当に嬉しかった。
生活も苦しかったろうに賽銭の代わりにいつもおにぎりを持ってきてくれた。
その子がきっかけで徐々に村の人たちがお参りに来てくれるようになり、数年後には社を立派なものにしてもらえた。
そして、きっかけになったあの子供が守り人になった。
家族の命を救ってくれたからと生涯結婚せず尽くしてくれたが、段々居た堪れなくて、あの時は自分の力ではないと白状したが、そのためだけに走り回ってくれたことがありがたいのだと笑ってくれた。
さらに時が経ち、神としてあの時より力が成熟した頃、あの子の寿命が来てしまった。
「君自身の願いを叶えてない」
「母の命を助けて頂いた。村のためにみんなと一緒に頑張ってくださった。・・・それに、幼い私の友になってくれた。充分過ぎるほど願いを叶えてもらった。」
死なないでほしいと縋る手をそっと握って話す君の顔は本当に満ち足りたものだった。
あの子がいなくなってからは、代々村の中から守り人が選ばれた。
みんな本当に良くしてくれるから、別れが辛いと分かっていながら交流は辞めなかった。
それに、あの子が言っていたのだ。
「仏様の教えでは人は生まれ変わるのだそうだ。それならば、私は生まれ変わったらここに戻って来るよ。それまで待っててはもらえないか?」
いつか、あの子の生まれ変わりが来るかもしれない。
いつになるかわからない約束だが、それでも待つことを選んだ。
ーーーあれからどのぐらい経っただろうか。
1人で境内にある桜を愛でていた。
その時、
「・・・あぁ。懐かしいなぁ。」
背後から声が聞こえた。
振り返ると、姿は変わっていたが魂の気配があの子だと告げていた。
「ただいま。神様。」
気づけば幼子のようにわんわん泣きながら抱きついていた。
待ってて良かった。また会えた。
ーーー1000年先の後、神と人の友は再会を果たす。その後、あの時のように仲睦まじく暮らしたという。
川辺に腰をおろすと、サラサラと聴き心地の良いせせらぎが聴こえてくる。
しばらく、その音を聴きながらぼーっと川を眺めていた。
ふと、隣の地面に目を遣ると青白く小さな花が咲いていた。
以前本で読んだことがあった。
確か、勿忘草という名前だったはず。
ーーー昔、ヨーロッパで1人の騎士が、恋人のために花を摘もうとして川に落ちてしまい、その花を恋人に託して『僕を忘れないで』と言い遺して沈んでしまった。
恋人はその花を【勿忘草】と名付けて生涯その勿忘草を身につけて恋人を忘れなかったーーー
悲恋であると共に、亡くなった恋人を忘れず生涯を貫いた女性の強さを感じた話だった。
小さな花が風に吹かれてそよそよ揺れている。
周りには他の勿忘草はない。
その一株だけがそこにいた。
自分の存在を、主張しているように思えた。
「・・・僕を忘れないで、か。」
優しくその花に触れてみる。
ほんの少しあったかい気持ちになれた。
その後、週に1回その川辺に来るようになり、あの勿忘草の隣に座って花を愛でたり景色を一緒に眺めたりするようになった。
まるで恋人と通いデートをしている気分だ。
・・・もし、枯れてお別れになってしまったら同じ花を買って育てよう。
名前の由来になったかの女性のように、ずっとその花をそばに置いておこう。
『勿忘草ー花に恋した話ー』
ゆれる、ゆれる
ゆれて、ゆれて、いつかあの空まで届くかな
一際大きく揺れた時、そのまま飛んでいけそうな気がした
あの青いばかりの気持ちのいい空
飛んでいけたらどんなに楽しいだろう
鳥と一緒にどこまでも飛んで行けたら
飛行機と一緒ならいろんな国に行けるのに
ロケットと一緒なら宇宙にだって行けるのに
でも、いつも届きそうになったらすぐ地面に戻ってしまう
降りた時、また遠くなってしまった空を見て
くやしい、残念と口を尖らせてもう一度乗る
今度こそ空に届いてやるんだと勢いよく体を揺らす
ゆれる、ゆれる
ゆれて、ゆれて、あの空へ
人生は旅と同じだとよく言われる。
山を登り、谷を下り、時に回り道をさせられたり、壁によってその道を断念したり。
それらは全て経験であり、何一つ無駄なものはない。
後々自分の役に立つのだと。
だから、しっかり自分の道を歩んで行くのだと。
今、自分の歩いてきた道を振り返ってみる。
お世辞にも綺麗な道ではない。
回り道ばかりで効率が悪く、少し行っては諦めて、中途半端な行き止まりになったところがたくさん。
今だって、本当にこの道に行きたかったのかと問われると自信をもって言えない。
いろんなものを諦めて、妥協してきた道のように思う。
このまま行ったその旅の果てはどんなものなのだろう?
本当にこのままでいいのか?
でも、今から変える度胸もない自分は今日もこの妥協の道を行くのだろう。
人生が終わる時、自分はその旅路の果てで何を思うだろうか。
「こんにちは!お届けものです!」
今日も僕は荷物を誰かに届けている。
北へ南へ、西へ東へ。近くから遠くまで。
僕たちは、ただ荷物を届けているわけじゃない。
その荷物には、依頼主の届け先の人への気持ち、心が込められている。
『元気にしていますか?』
『大好きだよ』
『頑張って』
『見守ってるよ』
そばにはいられない代わりに、荷物にありったけの真心、愛情を詰め込んで僕らに託す。
託された僕らはどんなガラス細工よりも丁寧に繊細に扱って責任を持って運ぶ。
人の心と心を繋ぎ止める、または一度切れた心の糸を再び繋げる大切な仕事。
責任重大だし大変ではあるけど僕はこの仕事が大好きだ。
だから今日も僕は運ぶ。
誰かの思いを、まだ見ぬあなたに届けたい。
《縁結びの運び屋》