『約束だよ!!』
当時6歳の近所に住んでいた男の子が言ってた
なんの約束だったかは覚えていないけど
その子が今日帰ってくるらしい
15年ぶりか...大きくなっているだろうな
としみじみしていると
スタイルがよくかっこいい人がこちらへ歩いてきた
モデルか芸能人の類だと思っていたら
あの子だった
私を見るなり片膝をついて
『約束通り戻ってきたから結婚しよ?』
私が忘れていた約束は重大なものだった
降水確率30パーセント
多分降らないだろうけど一応傘を持っていこう
この思いを君に伝えるだけだから
雨に濡れる間もなく帰るだろう
待ち合わせ場所に15分早く到着して
そわそわと空き教室の外を眺める
家の方向の空が灰色になっていた
ガラガラ
君が教室に入ってきた
ドクンドクン
心臓の音が君との距離に比例して大きくなっていく
「話って何?」
『...』
いざ言うとなるとやっぱり緊張する
『好きです 付き合ってください』
あれから5分後空は雲に覆われて暗くなっていた
念の為に傘を持ってきていて良かった
雨が傘にぶつかって弾かれる音がなんだか心地よい
我慢しようと思っても涙が溢れてくる
片思いはあっさり終わったんだと
あなたは私になんの感情も持っていなかったと
この気持ちは私だけだったんだと
波のようにたくさんの事実が心を蝕んでいく
こんな顔も涙も現実も傘が全部覆ってくれて
今だけはたくさん泣いていいんだと
優しく包まれている感じがした
今日も雨
昨日も雨
明日も雨
最近梅雨に入ったからかずっと天気は雨だ
雨だと何もやる気が起きないから嫌だ
君のストーリーを見てみると雨なのに
どこかに出かけたようだ
『晴れたらここで...』
何やら意味深なことが書かれている
ふと窓の外を見ると晴れていた
雲が少し残っているがとても綺麗な空が見えている
空を眺めていたら君からラインがきた
「一緒に出かけない?」
ストーリーにのっていたところだ
私は期待してもいいのだろうか
少しの期待と困惑を胸に私は返信した
絵を描くことが好きなわけじゃない
ただ周りの人よりも形が綺麗にかけるから
まだ上手だと褒めてもらえそうだから
そんな理由で美術部に入った
コンクールやコンテストがたくさん開催されている
自分も何個が出してみたけれど
ダメだった
同じ学年の友達は出したものには
全部賞が付いているのではないかと思うほど
上手だった
本人は才能だと褒められるのが
あまり好きではないらしいが
どう考えたって才能と努力の塊だった
自分が恥ずかしかった
情けなかった
賞をとるために応募してる訳では無いけど
友達が羨ましかった
でもある日その友達に自分の絵を褒めて貰った
あまり人の絵に関心がない感じの子だから嬉しかった
受賞したとか周りの人の評価とかよりも
何倍も嬉しかった
勝ち負けにこだわっていたようなこんな自分でも
この子は見てくれていたんだ
喜びを噛み締めたあの夏は私が1番成長した夏だった
もう...たくさんだ
こんな場所にいたくない
自分がいてもいなくてもたいして変わらないのなら
ここから飛び降りてしまいたい
強風が吹き抜ける屋上で
涙も流さずに1人でたたずんでいた
フェンスを乗り越え
片足を前に出そうとした時
「何してるんだ!!危ないだろ!!」
と誰かが頭の割れそうな大きな声で叫んだ
その声の人物を振り返ると
顔面蒼白というレベルで血色が悪い人に
飛び降りるのを止められたらしい
ということがわかった
彼になら言えるのかもしれない
ほんの僅かな希望を抱いて
フェンス越しの君に話しかけた