揺れる電車の窓から見える故郷の景色が
いつか懐かしいと思える日が来るのかな
形のないもので身近なものというと、言葉が思い浮かぶ。
どうしてもモノにはできないその音の、微細なニュアンスや声色の違いからも変容するそれは人の心を巧みに操り、救いにもなったり時には言葉のナイフとして突き刺さる。
その形のないもので、人の心は動かせる。
だから、私は小説を書くのが好きなのだと思う。
久しぶりに母校へと訪ねた時、砂場のところにジャングルジムが無くなっていたのに気づいた。
なんでも、場所の維持費と危険度が釣り合わないからやめたのだと。
そう考えると理にかなっているが、私としては少し寂しい気分になった。
頂上まで登り切った時の景色と、誰にも邪魔されないような無敵感。
あの景色が、今の子供達が見れないと思うと少し勿体無い気分になった。
私はネガティヴだから、何かするたびに声が聞こえるんだ。
「どうせ上手くいかない」だの「そんなことしたら迷惑がかかるからやめろ」だの。
それは誰でもない声で、本当は誰もそんなこと言っていないのはわかっている。
だけど、そんな微かな声すら気にして、一丁前に落ち込んでしまうんだ。
これもまた、私の良くないところなんだな。
夏休みが終わり、二学期が始まった。
旅行に行ってたのか日に焼けているやつもいれば、夏休みの間に彼女を作って色恋立つクラスメイトたちも増えてきた。
そう考えると僕の夏休みはお盆に田舎帰ったりしたけど平々凡々で少しもったいなかったかな、と少しだけ後悔しながら借りていた本を返しに図書室へと向かった。
本を返し、新しい本を物色する。みんなはラノベとか漫画とか読みたがるけども、僕は少し外れのとこにあるマイナーな本とかを読むのが好きだ。
今日も続きものの本を借りにいきたいのだが……。
「あーあ……」
マイナーたる所以か、僕の目当ての本は本棚のはるか上階へと位置が変わっていた。
夏休みでまた在庫整理をしたのだろう。もう人気作に押されつつ僕の本はいつか置かなくなってしまうのだろう。と残念な顔をしつつ受付の脚立を取りに向かおうとした。
その時。
「あ、脚立使うなら、私の本も取ってくれますか?」
隣で背の小さい女子生徒が話しかけてきた。
夏休みは終わったけど
僕の恋は、秋に始まるのかもしれない。