湿気なのか気圧なのか、息が詰まる感覚が取れない。
まるで水中の中にいるように呼吸がしづらく、たくさんの錘を服につけているように身体が重い。
昔はそんな風に考えていなかったけど、今ならこれは気圧の影響だということはわかる。
だるく、重くて陰鬱。これが今の私が思う梅雨の印象だ。
あー、仕事帰りたいなぁ。
「明日は雨が降るかなあ」
そんな風に言う彼女を見て僕は「天気なんてどうだっていいじゃないか、そんなこと」と言った。
本当に明日の天気はどうでもいい。何せ、僕が転勤してから彼女とは一年も音沙汰が無かったのだ。
遠距離恋愛は成就の可能性が低いからやめろとは言われていたけど、まさか自分がそうなるとは当時は露ほども思ってもなかった。
「なんで連絡してくれなかったんだ」
理由はもうわかりきっているのに、そう言葉を紡ぐ自分が情けない。
「でも最近暑くてたまらないから、ラッキーかな」
しかし、彼女は変わらず天気の話をしている。
きっと彼女も、あの言葉を言うのを惜しんでいるのだろう。
雨でも雪でもなんでもいい、泳がせないでくれ。
恋の終わり、明日は雨。
あの日、私は何かから逃げていた。
天変地異か、人殺しか、それとも別の何かか。
私はそれが何者なのかもわからず、悲鳴をあげて逃げ回るオーディエンスと共に駆け出していた。
追いかけるそれの視線は、まっすぐ私を捉えて離さない。
刹那、私に襲いかかってくる瞬間──強引に目を開けた。
冷静に考えたら夢だというのはわかってはいるのに、あの瞬間は確かに現実のように感じられる。
夢というのは不思議なものだ。
「ごめんね」
病室のベッドで、キミがそう言った。
僕はその言葉が今でも頭から離れないんだ。
あやまる必要なんて、どこにもないのに。
ただ申し訳なさそうに作り笑いを浮かべるキミの顔が、脳裏に焼き付いている。
袖が短くなると、夏の気配がする。
薄手のTシャツとどこか爽やかな色のブラウスを、箪笥から引っ張り出す。
いつのまにか窓は開けっぱなしで寝ることも多くなった。
窓の外を眺めると、湿気にみちた青葉の匂いが鼻腔をくすぐる。
たぶん夏はもうすぐだ。